部誌18 | ナノ


秘密の押し付け



「あの子には、内緒だぜ」

 泣きそうな顔で笑う名前にクルーウェルは唇を噛む。
 学生の頃からの付き合いがある名前は、いつだって大事なことを隠してしまう。そうして何事もなかったかのように過ごして、それも隠すことが上手なせいでクルーウェルはいつだって気付くのが遅れてしまうのだ。
 今しがた名前が口にした告白は本当は今だって信じられない気持ちが大きいが、ナイトレイブンカレッジには魔獣をつれた監督生と呼ばれる学生が在籍している。
 闇の鏡を通って異世界から来た子どもがあの子の前にもあっただなんて、思いもしなかった。
 しかもそれがクルーウェルが友と呼ぶ、なまえだっただなんて。

「でも、お前には魔力があるだろう」
「あるよ。俺の居た世界は魔力が存在している場所だった。だからここで、なんとかやってこれたんだ」

 マジカルペンもブロットも、そんなものはなまえが居た世界には存在しなかったがペンの代わりに杖があり、箒で空を飛んで試合するゲームもあった。
 似ているけれど、どこか違う。
 なまえがずっと抱いていた違和感はいつしかなくなって、今ではこの世界がなまえが生きる場所となっているが、自分がいた世界を忘れたことはない。
 年数が経つにつれ両親や友達の声や顔を思い出すのも難しく、もう何年も前から思い出すことはやめたものの、ずっと憚られた話を口にしたのは目の前で同じ境遇の子と話す機会があったからだろうか。
 魔力もなく、頼る人もおらず、帰り方がわからないあの監督生に。

「……あの子犬に教えてやらないつもりか?」
「帰る方法があるなら教えてやるさ。でも、俺は帰れていない。きっと、これからも帰れない」

 だから秘密だぜと、再度口にしたなまえはやはりどこか泣きそうな顔をしていた。



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