部誌18 | ナノ


手段を選ばない



正直にいうとめちゃくちゃ油断してた。自己分析しても自分にいいとこなんて見つからなかったし、平々凡々もいいとこだったから。まさか自分にあのナイトレイブンカレッジへの入学案内が来るなんて思ってもみなかったんだ。

のんびり進学に向けて全国統一テストの試験勉強中に、真っ黒なカラスが突撃してくるなんて誰が想像できる?
風通しのために窓を開けてたんだけど、弾丸の如くカラスが特攻してきて、おれの枕は死んだ。穴が空いて枕の羽毛は宙を舞い、呆然としているおれの耳に届いたのは、嘴が刺さって哀れな感じに鳴くカラス声。慌てて救出したのも、今はいい思い出だ。

ナイトレイブンカレッジーーNRCに入学する人たちは黒馬が迎えに来て棺桶に入れられて運ばれるって噂に聞いたことあったけど、やっぱりこうやって事前にお知らせが届くもんなんだな。まあそうだよな。いきなり連れてこられたら誘拐になっちゃうもんな。

うまいこと飛ぶのに邪魔にならないようにカラスに括り付けられた鞄に入っていたのは入学案内書で、興奮したおれが2階の自室から親に知らせようと階段を駆け降りようとして足を踏み外して落ちたの、いまだに家族に揶揄われる。妹なんかずーっといじってくるし、なんなら休暇中に遊びに来た友達にまでバラすんだから、いつかあいつの彼氏がうちに来たらあいつの可愛くも恥ずかしい話をしまくってやろうと決めた。
おれはいい兄貴だからな。本当に恥ずかしくてバラされたくないことはお口にチャックしといてやるから感謝するといい。

まあそんなこんなで天下御免のNRCに入学することになって、着慣れない制服に身を包み、そこそこのダンボールに荷物を詰め込んだおれは、特別な魔法の力なのか、荷物ごと黒馬の馬車に詰め込まれ、目覚めると棺桶からコンニチハしていた。入学式の後、寮に向かうと先輩たちから手洗い歓迎を受け、何が何だかわからないまま這う這うの体でようやく自分に与えられた自室に引っ込むと、そこにはすでにルームメイトがいた。

「やあ、はじめまして。俺はトレイ・クローバー。薔薇の国出身だ。これから一年よろしくな」

爽やかさと胡散臭さを同居させたような人物に、おれがビビったのも無理はないと、思う。
こんな奴と一年も一緒なんて大丈夫かよ、と不安に思った当時のおれ、お前のその不安は正しかった。
トレイ・クローバーはおれよりお兄ちゃんキャラだった。おっかしいな、おれも兄という立場のはずなのにな? お兄ちゃん力がカンストしてるっぽいトレイは、甘やかされるのに慣れていないおれを甘ったれキャラに変化させた、人道に悖る人物なのである。本当にひどい奴だ。一年間、甘えに甘やかされまくったおれは、なんというかこう、だめ人間なってしまった。これは親が泣くな……。

甘ったれって言っても何も赤ちゃん返りした訳じゃない。自分のことは自分でするし、自習も部活も寮での生活も問題なく過ごしている。誰もおれが甘ったれなんて思っちゃいない、はずだ。これでももう三年だしな。頼れる先輩って奴にもなれてる、はず。現に新入生の問題児、エースとデュースからの信頼もそこそこある。多分。なんかちょっと舐められてる気もするけど。他の後輩からも名指しで頼られたりもする。兄ちゃんみたいで安心しますって、最高の褒め言葉だよな。少なくともおれにとってはそうだ。

でも。不意に寂しくなることってないか? だってここはアウェイなのだ。誰より安心できる家じゃない。三年になったからって個室がもらえる訳じゃない。常にルームメイトの目があって、信用してない訳じゃないけど、心から信頼している訳でもない。一年の時は四人部屋で、二年からは二人部屋。個室がもらえるのは研修とかで外出の多い四年からだ。

一年度はよかった。目新しいことがいっぱいで、その環境に慣れるのに必死だった。さすが名門ー校って感じで授業もずっと先に進んでて、ついていくので精一杯。慣れないながらも頑張った。ホームシックになったりもしたけど、みんながみんなそうだったから、おれだけ、なんて不安に思うこともなかった。

「よくあることだし、気にしなくていいって。泣いてたことは内緒にしといてやるからな」

入学して3ヶ月が経ったくらいのことだ。急に寂しくなって寮から抜け出して、薔薇の木に隠れて泣いてたおれを迎えに来て抱きしめてくれたのは当時の寮長で、慣れた様子にほんとにおれだけじゃないんだなって思えた。泣いて腫れた瞼を冷やしながら自室に戻ったおれに、ルームメイトは何かを察したのか何も言わなかった。ただいまって言ってベッドに向かうおれの肩をポンポン叩いて来るから、多分泣いた原因はバレていた。はっずかし。でもおれ以外も似たような感じで部屋に戻ってきたやつがいて、からかうなんて出来なかった。そりゃそうだよなあ。自分のホームからこんなにも長い時間離れるなんて、すぐには慣れないよな。共同生活って、慣れるまではしんどいよな。

ちなみに、トレイがおれに甘くなったのはここからである。多分部屋で一番ホームシックになるのが早かったおれが、一番幼く思えたんだろう。庇護しなきゃって勘違いしてしまうくらいには。トレイがホームシックになったところをおれは見たことがないから、あんまり頼りにされてないか、おれを弟に見立てることでやり過ごしていたのかもしれない。いやわかんねえけど。多分だけど。

「……大丈夫か、なまえ」

ちょっとおれが精神的に不安定になると、いつもそうやって真っ先に気づいて気遣ってくれる。おれがそれにどれだけ救われただろう。ホームシックになりたてのころは特に顕著で、何をするにも先回りしてフォローしてくれたお陰でおれはそこそこだめ人間になったし、あまりの甘やかしぶりにトレイは寮長から注意を受けていた。そこまでやっちゃうと逆におれにためにならないと叱ってくれたのだ。本当ならおれがトレイに言うべきだったのに、おれはその心地よさに甘えきってしまった。

「ごめんな、トレイ。おれ、甘えすぎてたよな」

寮長お叱りの言葉に背筋をただしたおれは、トレイに謝った。だってトレイが叱られたのは、どう考えても頼りないおれのせいだからだ。

「いや、俺も……悪かったよ」

「トレイは悪くない。おれのためを思ってくれてたんだから。ありがとな」

これからもよろしく、って言ったら甘やかしが続きそうで、なんとなくその言葉は口に出せなかった。でもおれがニカッと笑いかけるとトレイも笑ってくれたから、多分わかってくれたに違いない。これからは弟としてじゃなく、対等なトモダチとしてやってこうなっていう、おれの気持ちを。

二年度はしんどかった。二人部屋は別にいいけど、あんまり話したことない奴だったし。ちょっと人見知りの気があるおれは、多数に中にいたら他のやつに乗っかって会話に参加できるけど、一対一はあんまり得意じゃないんだよな。慣れるのに時間がかかってしまって、ルームメイトには悪いことしたなって思ってる。まあ向こうもどっちかってーと同じタイプだったから、余計に時間かかったんだけど。

頼りにしてた寮長は四年生になって寮長じゃなくなって、新しい寮長は前寮長と似たようなタイプだったけど、そのあとすぐに新入生に挑まれて寮長じゃなくなってしまったし。リドルだっけ、新入生かつ新寮長は、規律に厳しいタイプだった。心が休まらない感じ。どうやらトレイと幼馴染らしく、トラブルを起こしがちな新寮長のフォローにかかりきりだった。仲の良かった友達が知らない奴にかかりきりになっている事実にちょっと面白くなくて、しかも同室のやつとはすぐに仲良くもなれなくて、慣れないうちはメンタルに来すぎて吐いたりした。

「えっ、吐いてる!? 大丈夫!?」

授業サボってトイレで嘔吐してたおれに声をかけてくれたのが、ケイト・ダイヤモンドだ。保健室まで付き添ってくれて、落ち着くまでそばにいてくれた。サボるいい口実だ、なんて笑ってたけど、多分、おれのためにそばにいてくれた。体調が悪い時に目が覚めると誰かがいてくれるって、すごくありがたいし、安心する。
久しぶりにホームシックになりかけたおれは、シーツに包まってちょっと泣いた。情けないけど、心細かったんだなって自覚したらなんかもう堪らなかった。ホリデイには帰省したはずなんだけどな、なんでかな。
授業をサボったは一コマだけで、次の授業には出れた。無理は禁物だよって心配してくれるケイトは、いい奴だ。おんなじ寮なのにそんなに話す方じゃなかったのが勿体ない。後日、ユニーク魔法を見せてくれながら一緒にサボったはずの授業のノート貸してくれたのにはビビったけど。ユニーク魔法すごい。素晴らしいユニーク魔法だけど、ミステリー小説なら絶対犯人になっちゃう魔法じゃん、てこっそり思ってしまったのはケイトには秘密だ。

おれは知らなかったけど、トレイとケイトはそこそこ仲がよかったらしい。ケイトから聞いたらしいトレイが、おれが吐いた日の夜に枕を持って押しかけてきた時はびっくりした。

「ケイトから聞いた。今日吐いたんだって? 体調は? 晩飯は食えたのか?」

心配そうな顔で詰め寄られたが、同室のやつがいる時点で本当のことを言えるはずもない。だってどう考えても悪くないし。おれが気にしすぎただけだし。ていうか脇に抱えているそに枕はなんなんだ。ここに泊まるつもりなのか?

「や、大丈夫だって、ちょっと胃の調子悪かっただけだし、そんな心配するようなことじゃねえって」

「──そんなはず、ないだろ」

痛ましそうな顔で目元を親指で撫でられて、泣いたことがバレてんだって気づいて顔が熱くなる。はっず。イイ年してホームシックとかでまだ泣くとかないわ。2年生にもなってそんな、なあ?
思わずトレイの手を払ってしまったのはまじで悪かったと思う。でもなんかこう、恥ずかしかったんだ。同い年の友達に子供っぽいところがバレたのとか、なんかもろもろが。
多分おれは耳まで赤くて、トレイの顔を見れなかった。これはあれだ、友達相手にイキってるところを親に見られたとか、そういう時の気持ちに似てる。

「────、」

「トレーイ! トラブルだ! ちょっと来てくれ!」

何かを口にしかけたトレイの後ろから誰かの声が聞こえる。多分、新寮長がまたいざこざを起こしたんだろう。

「とりあえず、あとでまた来る。預かっといてくれ」

「は!? いや来なくていいって……ああ……」

おれに枕を押し付けて、トレイは行ってしまった。いやほんとこの枕どうしろっての? 寝る場所なんかないよ? 知ってるだろ、寮のベッドがそんなに広くないことくらい。おれは順当に成長してるし、トレイはその上を行く成長ぶりだ。男二人でシングルに二人なんてむさ苦しくてごめんだぞおれは。

「……お前とトレイって、付き合ってんの?」

ルームメイトがぼそりと呟く。挨拶以外での会話なんてあんまりなくて、プライベートな会話なんてほぼゼロだったから、話しかけてくれたのはありがたいといえばありがたいけど、なんでそんな話題?

「いや付き合ってねえけど……そんな要素あった? ねえだろ?」

「……いや、じゃあ、まあいいけど。僕、どっかに泊まりに行った方がいい、か?」

「なんで?」

おれの頭の上には多分クエスチョンマークが乱舞していたと思う。いやまじで出て行く必要なくない?

「てかこの枕どうしたらいいと思う? ドアの外に置いといたらダメかな」

「それはクローバーが可哀想すぎるからやめといた方がいいと、思う」

「でもおれそろそろ寝たいし……つーか泊まる気なんかなこれ。シングルで二人で寝るなんてごめんだし、床に寝かすわけにもいかんだろうし、返しに行こうかなこれ」

「…………好きにしたら」

でっかいため息と共に、やってらんない、なんて言葉を呟く。ルームメイトが冷たい。
でもこの件から少しずつ打ち解けるようになったから、トレイ様様なのかもしれない。ありがとう、トレイ。ちなみに考えるのが面倒になって、枕は袋に入れてドアノブに引っ掛けといた。取りに来るって言ってたし充分だろ。

ぐっすり寝て、起きて、朝日を浴びながら頭を抱える。
ちょっとトレイと会話しただけで、気分が持ち直したなんて笑う。気持ちが軽くなって、息をつけるようになってる。依存しないようにって、一年の時に自分を戒めたはずなんだけどな。結局おれは、トレイに頼ってしまってる。情けないったらありゃしない。
翌日、枕の件も含めてトレイに謝った。恥ずかしいのもあったし、理由が理由だからあの場では言えなかったってことも。トレイは優しいから笑って許してくれて、今度は吐く前に頼ってくれよなって、肩を叩いてくれた。

いやでもお前、幼馴染くんで手一杯じゃん。
新寮長は寮長のくせにトラブルメーカーで、頭が固い。これだと思い込んだらノンストップだ。規律や規則に厳しくて、余裕があんまりなさそうな感じ。まあ一年生だもんな。おれが一年の時も余裕なんてなかった。自分のことでいっぱいいっぱいだった。多分、新寮長もそんな感じなのかも。
優秀だから新寮長になったけど、多分彼には寮内全体を把握するような余裕はない。だからこその規律や規則なんだろうけど。それを守ってくれさえいたら、寮でトラブルは起きないはずだから。

でもさ、完璧な人間なんてどこにもいないし、何もかも全て規則通りにはいかないよな。何よりおれたち、未熟者だし。立派な大人になるためにここに勉強しに来てるんだし。
ハーツラビュルはどの寮よりも規則や規律がいっぱいあって堅苦しい。全てを守るのは難しいくらいに細かい寮則が沢山ある。体調不良や家庭の事情、さまざまな理由で寮則を守れないことなんてザラにあって、そこらへんを臨機応変に対応してこそ、寮長だと思うんだけど。まだあの新寮長には難しいのかもしれない。

彼にはガス抜きする人間が必要だ。あと周囲との緩和材的な人間と、頑なに彼を諭せる人間が。まーそれを全てこなすのがトレイなんだよな。新寮長がトラブルを起こすたびに呼び出されて、どっちが寮長かわかりゃしない。

思わずじっと見つめていると、困ったように首を傾げるトレイ。よく見ると目の下に隈がある。昨日は遅くまでトラブルに対応してたんだろうか。その上でおれの部屋に戻ってきてくれたなら悪いことしたな。折角おれのための戻ってきてくれたっていうのに、預けたはずの枕はドアノブに引っかかってて、ノックしても誰も出てこないとか、悲しすぎるだろ。
やっぱいつまでもトレイに頼ってちゃダメだ。ちゃんとしないと。そんでトレイに頼られるような人間になんないとな。

「ごめんな、トレイ。大変な時期なのに、おれのことで迷惑かけて」

「いや、迷惑なんて……」

「おれ、トレイに頼らなくていいように頑張るよ。そんでトレイに頼られるような立派な男になる」

「………ああ、うん」

決意を新たにするおれに、トレイは曖昧に頷くだけだった。くっそ、やっぱおれ頼りないんだな。いつかお前から「助けてくれ」って縋られるような立派な男になっちゃる。
後ろでケイトとルームメイトが溜息を吐いた気がしたけど、気のせいだと思うことにしておく。いやおれだってやればできる子のはずなんだ。多分。きっと。メイビー。
明日から頑張る。




どうしてこうもうまくいかないんだ、とトレイ・クローバーは溜息を吐いた。
トレイの想い人は、鈍感である。はじめはじわじわと、最近になっては露骨にアピールしているつもりなのに、一向にこちらの想いに気づく気配がない。特別扱いしてることにも気づいてない可能性があって、トレイはなんだか泣きそうになった。

出会ったばかりの頃はまだ幼さを残していて、見た目は中性的で可愛かった。そう、見た目は。
中身は子供のままだった。同い年の16歳のはずなのに、心はミドルスクールのままだった。情緒とかそんなものはない。うんこちんこで馬鹿みたいに笑える人種だった。ゲラゲラ笑っている姿を見て結構ショックを受けたので、多分一目惚れだったのだろう。初恋だ。嫌になる。
それでも、ホームシックで泣いていた姿を見て寄り添いたいと思ったし、当時の寮長に抱きしめられているなまえに、腹の底から叫び出したい気持ちになった。俺が抱きしめたかった。慰めるのは俺でありたかった。そんな想いがひしめいて、口から漏れ出しそうになった。耐えることができたのは、今告白したってなまえには響かないとわかっていたからだ。なまえにとってトレイはルームメイトの一人でしかない。親しくもない人間に告白されても困るだけだろうし、気まずい状態で同じ部屋で生活しづらいだろうし、それ以前に部屋替えの可能性もあった。

まずは、親しくなってから。ゆっくりと着実に、なまえとの仲を深めて行く必要がある。
弟妹の世話をこなしていたトレイにとってルームメイトたちの面倒を見るのは難しくはなかった。全員の面倒を見つつ、なまえを甘やかす。一番にホームシックになったことと、なまえの幼さの残る容姿から、トレイの甘やかしはそう問題にされなかった。他のルームメイトすらほどほどになまえを甘やかすのだから、余計に。
そうしてゆっくりと依存させていこうとしていたトレイにストップをかけたのもまた、当時の寮長だった。多分彼はトレイの気持ちにも思惑にも気づいていた。なまえの前でトレイの甘やかしを注意することで、なまえにも自覚させてきたあたり、ハーツラビュルという多彩な人間がいる寮をまとめるだけのことはあった。

まあそれでも、そんな寮長もいつかは去る。四年生になれば研修だのなんだので寮にいる時間は少なくなり、いつかは卒業する。そうなればトレイが何をしようが口出しできなくなるはずだ。
そんな期待を胸に二年度を迎えたトレイを襲ったのが、幼馴染のリドルのはちゃめちゃ寮長就任である。勘弁してくれ。幼馴染だからこそ見捨てておけず、トレイはリドルの尻拭いに奔走する羽目になってしまった。なまえとの時間が取れるはずもなく、どうしてこんなことに、と頭を抱えたのは一度や二度ではない。

リドルにかまける自分に、なまえが嫉妬してくれないかと期待したこともある。けれど心配そうな顔をすれど、寂しそうな顔なんぞ見たことはなく。これではダメだと無理矢理時間を作ってアピールしてもなしの礫。そもそもがアピール中にリドルが問題を起こしては呼び出されるのだから、何度癇癪を起こしそうになったか。
そうこうしているうちになまえはストレス性胃炎を起こしているし、ケイトと仲良くなっているし。どうにかせねばと部屋を訪ねてもやっぱり呼び出されて、ようやく問題を片付けてなまえの部屋を再度訪ねたら帰れと言わんばかりに預けた枕がドアノブに引っかかっていて、トレイはちょっと泣いた。

さらに翌日には「頼らない」宣言である。どうしてこうなった。じわじわとなまえを依存させて行くはずが、「立派な男になる」なんて独り立ちを決意していて、もう何が何だかわからない。おかしい。こんなはずではなかった。

もうこれ、なりふり構っていられないのでは?

なまえは鈍感で、トレイの斜め上を常に歩いている。頼むからまっすぐ歩いてくれと願うけれども、思い通りになった試しがない。アピールはしていても、今の関係を崩すのが怖くて決定的な言葉を告げていないのも敗因の理由だろう。思わせぶりな態度なんてなまえには通じない。正攻法しか道はないのだ。
たとえ告白して振られたとして、それでなまえを諦められるかと問われれば答えはノーだ。もうそんな程度ではこの気持ちをどうこうできない。

つまり、トレイ・クローバーは、なまえ・みょうじを愛していた。どうしようもないくらいには、深く。

なまえを愛する気持ちがなくならないのであれば、無理矢理こちらを振り向かせるしかない。手段なんて選んでいられない。そんな余裕なんて最早ないのだ。

翌日から、トレイの猛攻が始まった。
果たしてなまえがトレイの気持ちを受け入れるのかどうか、それは神のみぞ知る。



prev / next

[ back to top ]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -