部誌17 | ナノ


君待つ朝



ベッドが軋む振動で眠りに落ちていた意識が浮上する。元々人の気配には敏感な方だ。ただのトレーナーだった頃から、ワイルドエリアで野宿していた癖が未だに残っているようです少しの物音でも起きてしまう。
瞼をゆっくり開けば、隣りに寝ていたはずの恋人の姿が見えない。ゆるりと首を動かして辺りを見渡せばすぐに見つかった。
先程までじっくり堪能していた裸体が服を纏っていく。それは部屋着ではなく、恋人が普段から身につける仕事着であった。それで全てを察してしまう俺様の優秀さに嫌気が差す。
「なにまた呼ばれた?」
背中に向けて声を掛ければビクリと体が跳ねる。それから気まずそうにこちらに顔を向けてきた。
「……みはりの塔の跡地にキャンプ張ってたトレーナーが行方不明らしい」
「えー、あそこでキャンプ張るとかゴーストポケモンに襲ってくださいっていってるようなもんじゃん」
「多分ほしいポケモンがいたんじゃないかな、ほらあそこたまにレアなポケモン出てきたりするし」
そんな呑気に話しながら着々と服を着ていく。出かける気満々の恋人に溜息を吐き出す。俺様もそれなりに仕事に夢中になるけど恋人のほうが何倍も仕事バカだ。のそのそとベッドから抜け出て恋人の背中に抱きつく。
「なあ今日俺様と新しいシューズ見に行く約束だったはずじゃなかった?」
「……ごめんキバナ」
申し訳なさそうに眉を八の字にして謝られてしまうも何も言えなくなる。
俺様とてこんなこと言いたくないけれど、たまに被った休みを恋人と過ごしたいと思う気持ちもあるのだ。嫌味の一つくらい言ってやりたくもなるけれど恋人の謝罪一つで許してしまうなんて俺様も大概かもしれない。
本気で悪いと思っているから汗を飛ばして謝る恋人を引き止めたい気持ちをすぐさま切り替えて顎を掴んで上を向かせる。痛いと零す声なんて無視してそのまま上からキスを落とす。
「俺様ベッドの中で大人しく待ってるから早く帰ってきてねダーリン」
「……善処します」
今度は恋人から頬にキスをいただくと、すぐさま恋人は離れていく。行ってきます、と後ろ髪の一房さえも引く素振りもなくそのまま部屋を出ていった。もう少しくらい寂しがってくれてもいいじゃない。恋人の切り替えの速さに寂しさを感じてしまう。
一人取り残された部屋はなんとも味気ないものだった。そのまま眠る気も起きず、徐にベランダに近づく。
カーテンを引けば外は明るくなり始めていた。あと少しすれば朝だ。そのままベランダを出てみればもうマンションから出て走っている恋人の後ろ姿が目に入る。あんなにベッドで激しく動いていたというのによく走れるものだ。頬杖ついて恋人が見えなくなるまでその背中を見送る。
もう恋人を待つ朝を迎えるのは何度目だろう。数えるのなんて当の昔にやめたが、それでもついつい見送ってしまう。
先に惚れた方が負けというが、まさにそのとおりだ。
だから今日も健気な俺様は今日も恋人を待つ朝を迎えてしまう。早く帰ってこい、なんて悪態はもちろん心の中だけにしておく。



prev / next

[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -