部誌17 | ナノ


餞の花束



「柿崎はいるか」
 突然に嵐山隊の作戦室を訪れた先輩の姿に、そこに居合わせた嵐山隊の面々は釘付けとなった。ただでさえ長身に仏頂面、それにそぐわない鮮やかなピンク色の隊服、さらに最近プラチナブロンドに染めた髪の毛がちぐはぐでとっつきづらい印象を与える人だというのに、その彼が花束を携えてやってきた。
 みょうじは日頃からお世話になっている先輩だが、改まって花束を抱えた突然の訪問に、柿崎は反応が鈍る。嵐山から「柿崎」と促されてようやく、立ち上がることができた。
「少し……外で話せるか」
「はい」
 誘われるままについていくと、休憩スペースにたどり着く。人の姿のないそこがちょうど良かったらしく、みょうじが足を止めた。後ろから眺めていても、この人が花束を持って歩いている姿は、少し面白かった。
 そんなことを考えていると、先輩がやおらに振り返る。
「柿崎、今日だろう」
 その言葉に、柿崎は自分の表情が強張るのを感じた。何が、とは言われずとも、お互いにわかっている。今日は、柿崎が嵐山隊を離れる日なのだ。
 みょうじに伝えてはいなかったはずなのに、どこから聞きつけたのか。彼の隊の隊長はよく気が回る人だから、何か口添えがあったのかもしれない。
 余計な気遣いをさせたくなくて、知り合いたちには黙っていた。結局皆に知れ渡ることなのに、問題を先送りにして。
 ん、と花束が差し出される。やはりこれは、柿崎に宛てたものだったらしい。みょうじは無骨な顔立ちと口数の少なさが相まって武士のような印象を与える人であったが、そんな人が花屋で花束を選んできたのだと想像したら、少しおかしく思えた。
「ありがとうございます」
 ボーダーを辞めるわけでもないのに大袈裟なことだ。嬉しい気持ちと、隊を離れる罪悪感とがない混ぜになって、ずしんと胸に沈む。
 随分立派な花束だった。花の名前はわからないなれど、オレンジ色と黄色で統一された明るい印象の華やかな花束。柿崎は、それが自分の名前に合わせた色でコーディネートされていることに気づき、気恥ずかしくなる。花束なんて、もらいなれていないから。嵐山と違って。
「少し、大袈裟だったか」
 思っていたことをみょうじが言ったものだから、柿崎は慌てて「すみません」と謝罪した。図星であることを認める素直な反応にも、みょうじは嫌な顔一つせず、口の端を綻ばせた。
「柿崎が新しいチームで頑張れるように」
「みょうじ先輩……」
 みょうじは、柿崎の頭をわしわしと撫でた。ボーダー隊員が増えて、自分が年長者に数えられるようになってきてから、こんなふうに子供扱いされることなんてほとんどない。大きな決心をしたこの日の、信頼する先輩からの激励が、こんなに嬉しいものだなんて知らなかった。
 柿崎は、もらったオレンジ色の花束を抱え見つめる。今の自分に期待をしてくれる人が嬉しくて。らしくないとさわやかな花の香を胸いっぱいに吸い込んだ。



prev / next

[ back to top ]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -