部誌17 | ナノ


運命のくそったれ



何が運命、だよ。
運命なんて言葉で片づけられてしまったら、俺の立つ瀬がねえだろうが。


「もはやこれは運命では?」

大層惚れっぽいクラスメイトの口癖である。
頬を紅潮させ、瞳をきらきら輝かせて、胸の前で握り拳を興奮したように振るのは、みょうじなまえ。当真勇の友人だ。
知り合いというには近く、友達ではちょっと足りなくて、でも親友というには少し気恥ずかしい。そういう立ち位置の友人だった。当真に勉強を教えてくれるほどには勉強はできるが、頭は悪かった。

「また貢ぐクンさせられるんじゃねえの? あの女はやめといた方がいいと俺は思いますけれども」

「なんで敬語? いや彼女のことを知らないのにそういうことは言っちゃダメだよ当真! 彼女に失礼だよ! 素晴らしいひとなんだから」

このクソ野郎。
思わず舌打ちが漏れそうになる。何回たちの悪い女に騙されたら気がすむんだ脳みそウルトラハッピー野郎め。
高校時代からの友人ではあるが、みょうじの中学時代の友人は、どこかみょうじと線を引いている。嫌っているわけでもなさそうだし、会話も普通にしているのに、頑なに勉強や部活の話題でしか会話しないので首を傾げていたのだが。その理由を理解した時、なるほどねと当真は深く納得してしまった。

みょうじという男、ひたすらに趣味が悪いのである。悪女に騙されたいタイプとかではなく、本気の本気で悪女をいい人だと思い込んでいる、めちゃくちゃたちの悪い恋愛をするのだ。
おそらくは中学時代で何かしらのゴタゴタが起きたのだろう。みょうじの友人たちは、ひたすらにみょうじと色恋に関する話題を避けていた。俺も避けたいと当真は思った。だって面倒臭すぎる。

中学生なんて交友関係は学校か塾くらいしかない。それ故にみょうじが恋愛に溺れても、ある程度の損害で済んでいたのだろう、多分。周囲に多大な影響を及ぼした上でのみょうじとの恋バナ厳禁だろうとは思うが、今より被害は少なかったと思える。
高校になればバイトが可能になって、みょうじの色恋には金の存在が強くなってしまった。みょうじの人となりを知った頃にはすでに情が移ってしまった当真である。貢ぐために借金しようとしたみょうじの頭をぶん殴って止めたし、今となっては変な女性に引っかかる前に制止をするようになってしまった。

何なんだおれはみょうじの親か? 嫌すぎるぞこんな簡単に借金こさえそうな奴。俺が一から育ててたら絶対こんな恋愛パッパラパーみたいな奴にはしねえ。
さりげなくみょうじの親をディスっているが、なんせ当真はみょうじ家公認のストッパーである。社会でバリキャリとして働く大人2人に頭下げられるの、すごく気まずかった。今となってはみょうじのせいで、みょうじ家と当真家の仲はよい。

「いっそ勇くんがなまえのこともらってくれてらいいのに」

みょうじ母のその一言で両家は盛り上がったが、洒落にならねえなと当真自身は思っている。
大概当真も趣味が悪い自覚があるのだが、当真勇は、みょうじなまえのことが好きなのである。
すわ見透かされたか、と尋常じゃない動悸息切れを起こしたが、いつものポーカーフェイスでやり過ごせた、はずだ。自信はない。まあ、そんな馬鹿なことある訳ないよと笑っていたみょうじ本人にバレていなければそれでよい。

「素晴らしいひと、ねえ。お前の人を見る目のなさは痛感しちゃってるからなぁ」

「うっ……いや、当真に迷惑をかけて申し訳ないとは思っている! でもこれは! 運命なんだ!」

「お前の運命何回目? 聞き飽きたっつーの」

ロマンチシズムに浸るのはよいが、毎回たちの悪い女性に引っかかっては運命だなんだと騒ぎ立てるので、当真は食傷気味である。みょうじの運命ほど薄っぺらい言葉などない。運命なんて言葉を持ち出せば説得力を得られると信じているのだろうか。残念ながら、みょうじのおかげで当真は運命という言葉自体が嫌いになってしまった。

だってそうだろう。
そこらへんに歩いてる見目はよいが性格がクソほど悪い女性に運命を感じているなら、当真に運命を感じてくれてもいいはずだ。
当真を献身を、みょうじは理解していない。そう仕向けているのは自分だが、ひたすらにもどかしい時もある。今の関係を崩すのが怖いくせに、そのくせみょうじが他の人間にうつつを抜かしているのは不快なのである。たまーに、本当にたまーに、みょうじも当たりを引く時がある。性格の良い女性のことを好きになっていても、当真は変わらず告げる。

「お前、まじで趣味悪い。見る目がないんだからやめとけよ」

俺にしとけよ、と続けられないのが情けないところではある、が。
それでも当真は、今日もみょうじの横に立っている。
いつか当真の運命が、こちらを向いてくれることを願いながら。



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