うつくしい横顔
マルコがとある街の路地裏で倒れていたなまえという男を拾ったのはほんの気まぐれだった。
金糸の髪は泥と血で汚れており、服は身につけていたがボロボロの状態であちこちに破れたあとがある。
身体も骨と皮のようで見ているだけで痛々しいが、微かに息をしていることからかろうじて生きているのは見て取れた。おそらく、このまま放っておけば死んでしまうのは時間の問題だろう。そんな状態の男を見捨てるのはマルコにとって簡単だったが、そうしなかったのは薄く開かれた彼の眼が赤い色をしていたからだ。様々な海を旅してきたマルコだが、目の瞳が赤い人間を見るのは初めてで、この色が消えてしまうのは少しばかり勿体なく思えた。さいわい、この男を持ち帰った所で食料や寝床に困るような生活はしていない。なにせ、マルコは100人は優に超える大海賊白ひげ海賊団の元にいるの息子の1人なのだから。
服を与え、食事を与え、居場所を与えたマルコをなまえが慕うのはごく自然のことだった。
時間が経つにつれ骨と皮だけだったなまえの身体は脂肪と筋肉がついてきて、見つけた頃に比べれば随分と健康的になっている。
泥と血で汚れていた金糸の髪も洗ってみれば綺麗な金色で、最近では太陽の光と海の光が反射して一層輝いて見える程だった。
まるで親鳥を追いかける雛のようにマルコの後を追いかけているなまえの姿を最初はからかっていた家族だが次第に見慣れるようになり、共にいることが当たり前になっていた。
なにせ、マルコがなまえを側に置きたがったからだ。家族の誰もがそんなマルコの事を珍しがり、静観するようになった。マルコは普段モノを拾わないし、我儘も言うことがない。
拾った情か、はたまた別の感情か。
誰もがマルコの心を察することは出来なかったがなまえのことを大事にしていることはマルコの態度で誰もがわかっていた。
「マルコってなまえのことどう思ってるの?」
あまりにもマルコがなまえを大事にしてるので、気になったハルタがマルコに問いかけた。
ハルタにとってなまえという男は、マルコが拾ってきた男で汚かった第一印象とは同じ男と思えないような綺麗な見目をしている。マルコが守らなければすぐに死にそうにしか思えず、強くて戦力になるような男には到底見えない。
「……宝石箱みたいな男だよい」
マルコの答えにハルタはゆっくりとなまえに目を向ける。
染めたことのないような金髪、男の中でもそれなりに整った容姿、珍しい赤い瞳。
家族の中にも見目が良い男は何人か居たが、ハルタにはあまり違いが分からず、マルコの回答に首を傾げるばかりだ。
「なまえは意味わかる?」
「さあ……でも、拾われた時から俺はマルコのものだもの」
ね、となまえがマルコに同意を求めた。
笑うなまえにつられたマルコの顔は穏やかな表情を浮かべている。
「(つまり、マルコにとってのオタカラって訳か)」
楽しそうに笑いあうマルコとなまえの横顔にハルタはそっと目を逸らした。
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