部誌15 | ナノ


このゆめはつづいていく



きらきら、輝く瞳が眩しかった。
その瞳を曇らせてはいけないのだと、強く思った。
守るべきものを、ようやく見つけた気がしたんだ。


作戦室のソファに寝転んで、太刀川慶は虚空を見つめていた。虚無である。暇を拗らせすぎて目を開けながら寝ている状態だった。なんせ暇なのである。
ちらりと横目で見れば、少し遠くでは出水公平とみょうじなまえが、床に座り込んで真剣に話し込んでいる。4つを過ぎた頃の子供に真剣に何を、と思う人間もいるだろうが、なまえはその年齢に見合わず聡い。それは忙しい親を気遣うが故に聡くならざるを得なかったという悲しい事実を根幹としていた。
唯我尊というどうしようもないボンボンを知っているだけに、なまえという存在がより輝いて見える。尊いなんて難しい言葉は使ったことがないのだが、多分こういう時に使うのだろう。

なまえのトリオン量は膨大だ。先日の検診では、その巨大すぎるトリオンの量をきちんと制御しないことには、暴走などもありえるという結果が出ていた。太刀川も、恐らくは上層部の面々も、なまえをそんな目に合わせたくないため、早い段階からのトリオンの扱いを習得させようとしていた。出水はその指導に当たっている。
きちんとした理論立ててトリオンの扱いを教えることも可能なのだが、幼いなまえにそれを理解しろというのも難しい。その天才的な感覚でトリオンを扱う出水は、なまえが懐いているという事実も含めて最適の人選だろう。太刀川もそれを、理解している。理解しては、いるのだが。

「ひますぎる……」

こんな時に限って国近柚宇はオペーレーターの面々と遊びに行ってるし、唯我は追い出したばかりだ。ランク戦にでも行けばいいのだろうが、なんとなく興が乗らない。こういう時どうしてたっけ、と思い出そうとしても、なかなか思い出せない。なまえと出会ってまだ数ヶ月だというのに、出会う前のことはひどく朧げだ。それだけ、なまえと過ごす日々は太刀川にとって新鮮で、特別だった。

太刀川の視線の先には、真剣な顔で出水の話を聞くなまえがいる。最近の開発室で行う授業では、そこそこトリオンの扱いにも慣れてきたということで、こうして太刀川隊の作戦室でも指導されるようになった。
なまえのトリオンは大きくても、生み出すトリオンキューブの大きさはとても小さい。コントロールをまずは覚えさせることから始まった出水の指導は、なかなかどうして、上手くいっているらしい。宙に浮かぶ小さなキューブが、なまえの意思に沿って8の字の形を描いてぐるぐる回る。出水となまえの歓声が、太刀川の耳にも届いた。

「けいくん!」

きらきらと瞳を輝かせて、なまえが太刀川に振り向いた。キューブを宙で循環させた状態で、なまえが太刀川の元へと駆け寄ってくる。なまえが自分の元へたどり着くと同時に体を起こした太刀川は、そのまま飛びついてくるなまえを抱きとめた。

「やったよけいくん! できたよ!」

「見てた見てた。なまえくんはすげえな〜俺、そんなことできないよ」

「えへへ」

射手用のトリガーを仕込んでないというなもあるが、太刀川のトリオン量は出水やなまえほど多くはない。また孤月のようなブレード系トリガーをメインにしているためもあり、射手用のトリガーの扱いは不得手だった。しかし、なまえの現状がとんでもないことは理解していた。
恐らくはアステロイドだろうトリオンキューブを宙でぐるぐる循環させるだけではない。なまえは、その循環させたトリオンキューブごと、太刀川の元まで駆け寄ってきたのだ。つまりはアステロイドのトリガーを充分に理解し、制御しているとも言える。今も太刀川となまえの頭上で循環しているトリオンキューブを見上げると、出水が少し複雑そうな顔をしているのが見えた。なまえには見せられないが、太刀川も似たような心地だった。

早すぎるのだ。何もかも。
焦らなくていいと何度伝えても、なまえは頷かなかった。出水に教えを請うては、真剣にトリガーの扱い方を覚えた。
なまえのトリオン量は膨大で、聡いとはいえ、まだまだ庇護されるべき子供で。しかし今の現状では、いざという時、兵器のような扱いをされないとは言い切れない。それぐらい、なまえの能力は突出していた。
ボーダーという組織を、太刀川は信頼している。忍田はもちろんのこと、何だかんだ城戸も鬼怒田も、人情味のある人間だ。こんな小さな子供に無体を強いることはないだろう。
それでも、万が一ということは、あり得るのである。

「これでぼくも、けいくんたちのちからになれるかなあ」

えへへ、と頬を赤く染めて、なまえが言う。

「いつか、ぼくがけいくんたちをまもるからね」

笑うなまえの意志はきっと硬い。
けれどその夢が、理想が、夢や理想のままであればいいと、太刀川は思う。

なまえの力をあてにしなくてもいいように。
もっと強く在らねばならない。

なまえを抱く力をわずかばかり強めながら、太刀川は強くそう己に誓った。



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