部誌15 | ナノ


鍵穴



ひとの心に、扉があるとする。
人懐っこいひとは扉が開いてるんだろうし、人見知りのひとの扉はいつでも閉じれるように、ちょっと隙間が空いてるくらいかな。

人嫌いのひとは、鍵でもかかってるんだろう。
じゃあその鍵を持ってるのは誰?




「誰だろ……」

いやほんと、誰? その鍵おれにください。
想いびとがいて、そいつは人嫌いっぽくて、自分のとこの隊員以外と仲良くしてる姿、あんまり見ない。いや性格悪めだし口も悪いしで友達いないのかな? そんな訳ないか、友達そこそこいる、のか? ボーダーでよく喋ってるひとは友達? それともただの同僚? どうなの? そこんとこどうなの? おれ同じ大学じゃないからわかんねえな!?

とりあえず、は。
壁があるというか、おれに対しては鍵がかかってると、いうか。やばい涙出そう。現実直視したくない悲しい。べ、別におれが嫌われてるわけじゃ……ないはずだ……
考えれば考えるほど悲しい結末に陥ってしんどい。でもまあそうだよな。心の扉の前に立って「あーけーて」って子供みたいに声あげても居留守使われてる感じだもんな。鍵穴から覗いても向こうは見えない。だってあいつの心の鍵は最新式電気錠だもんな。鍵と生体認証2つ一致しないと開かないとかそういうやつ……。

ほーんと、そこまで嫌われてるっぽいのに、なんで好きになっちゃったんだか。ひとの心はほんと、ままならねえなぁ。

おれは、ただ。
笑って欲しかっただけだ。いつも眉間に皺寄せてて、人生つまんなそうだなって、そう思ったから。余計に。気になりだすと止まらなくて、目が追うようになって、そしたら多分、好きになってた。

それだけ、なんだけどなぁ。

「ずっと好きでい続けるのは、しんどいな」

嫌われてるってわかってるから、特に。だってそうだろう、あいつはいつも、おれが近づいたり話しかけたりすると、眉間の皺を深めるんだ。適当な相槌で、話しが途中でも勝手に切り上げてその場を去られたこともあった。何度もそういうことがあれば、嫌われてるんだなって気づかない訳がない。

もうそろそろ、潮時なのかもしれない。
いや、ずっと前からそうだった。ただおれが、未練たらしく追い縋っていただけだ。あいつの、二宮匡貴の迷惑も考えずに、おれがしたいからしてただけ。そんなの、嫌われて当然だろ。

「あほらし……」

ほんと、おれの想いは傍迷惑で自分勝手だ。そんなの二宮だって嫌に決まってる。うんざりして大きな溜息吐きたくもなるよな。
一度きちんと謝りたい気もするが、それは多分、今じゃない。嫌いなおれに近寄られる方が嫌だろう。手紙を出してもいいけど、感情がせり上がって文章化できそうもないから、それも後回し。となると、フェードアウトになっちゃうな。それも致し方ないか。

「ボーダーも辞めるか」

世界の危機がうんたらかんたらはまぁ、大事だけども。おれはしがないB級のひとりだし、おれひとり抜けたからと言ってダメになる組織ではないし。何より、ボーダーに関する記憶消去の措置を受ける。
なかなかこれは、グッドな案なのでは?
おれと二宮の接点なんてボーダーくらいしかない。つまり記憶消去されてしまえば、二宮のことも忘れられるのだ。この胸の痛みも、恋しい想いも、二宮に関する何もかもすべて、が。

それは、なんて。

とてつもない名案に思えてならなかった。
おれはうまれも育ちも三門の人間だから、実家もここだし、大学も近いところに行った。この街で生まれ育ったおれにとって、三門の外で暮らすのはなかなか勇気がいる。記憶消去されても、おれはこの街に住み続けるんだろう。今ではそこここに二宮の面影を思い出すものが溢れてるけど、忘れてしまえばそれもなくなる。なくなるんだ。

だったら………だったら。




なんでもない春の日、ひとりの隊員がボーダーを辞めた。
記憶消去の措置を受けた彼は変わらず三門市に住み続けたが、それを知るものはそう多くはなかった。
知らないうちのひとりが、いつのまにか近くにいなくなったひとの腕を街中で掴んでしまうのは、そう遠くない未来の話だ。



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