誰がお前のことなんか、
その一言がいえたら、きっとこいつは楽になるのに。
よくいえば献身的ともいえ、悪く言えば従順ともいえる。逸身顕彦という男は、そのよくも悪くも宮都に対して盲信的な部分があった。
宮都が望めばいつだって応える。どんな願いも要求も、無茶ぶりといえる頼み事さえ顕彦は変わらぬ表情で頷く。宮都はそんな顕彦に甘えていながらも、その危うさが心配になるときがある。こういう男だったろうか、遠い昔の学生時代の顕彦を思い出すが、もう少し宮都に対して厳しかった気がしなくもない。
「お前さ、もう少し嫌がってもいいと思う」
宮都が手を伸ばし、服に手を忍ばせても顕彦は抵抗もしなければ逆に積極的に宮都に体を預ける。頬が紅を差し、潤んだ瞳が宮都をゆっくりと映す。きょとんと不思議そうに首を傾げる男のあどけなさにこれで自分と同い年だというのだから驚きだ。
「いやがる……?」
「お前なんでも受け入れるだろ少しくらい抵抗してもいいかなと」
「……今日はそういう趣向か?」
どうしてそうなる。散々色々してきたせいなのかすぐにそっちに思考がいってしまうのはさすがに仕込み過ぎた。
ほんの少し反省してる間に顕彦は考え込む。抵抗しろといっても、別に嫌だと一言ばいいだけだ。そうすれば少しは自分も控えられるのにと顕彦に責任転嫁する。
すると、顕彦の手が自分に伸びる。胸に手を当てると軽く押した。
「……誰がお前なんか」
「?」
「……触られても、気持ちよくないんだからな」
口にしてから顕彦は眉を顰めた。自分でいっておいて違和感ある、と顔に書かれている。一瞬なにをいわれたか理解できなかったが、顕彦なりの抵抗なのだと気づき、自然と苦笑いが出てしまう。そういう意味じゃなかったのだが、顕彦らしいといえばらしい。
「気持ちよくないのか?」
だからその意図に乗ってみるのも一興だと思うことにする。ならやめるかと肌に触れる手を名残惜しく撫でるとふるりと体が揺れる。ほうと熱い吐息を零す体の正直さが自分をさらに意地悪くさせていく。
顕彦と、返事を催促すれば自身の胸に触れる手が服を握りしめる。
「……だから、気持ちよくなるまで触ってくれ」
頼むと懇願する艶やな瞳が自分を捉える。いまから行う行為への期待を全く隠す気がない。これでは抵抗の意味がないではないか、と口にはせずに指先で軽く肌を引っ掻いて抗議した。
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