部誌13 | ナノ


すきの温度



 握った掌の温度が相手の気持ちを思い知らされる。
「好きです」
 その言葉を伝えれば握った手がピクリと震える。反応を窺おうと相手の瞳をじっと覗き込む。しかし、自分から逃げるように視線を外し、はあと大げさにため息を吐き出した。
「何度もいってんだろ、俺はお前のことをそういう意味で好きじゃないって」
「それが僕が年下だからですか?」
「……当たり前だろ」
 それ以外何があるのだといいたげに見下ろされる。自分よりも頭一個分もある相手を見上げるのは悔しいとしかいえない。そんな僕の心情を伝わったのか、繋いでいない方の手で僕の頭をぽんと撫でる
 
「そりゃあ2歳3歳ならまだいいけど、お前今年でいくつになる?」
「……15歳」
「俺の年齢は?」
「…………28歳」
「俺たちの年はいくつ離れてる?」
「……………………13歳」
 念を押すように数の確認をされるたびに、自分の機嫌がどんどん急降下していく。
 13歳、それがこの人との差だ。干支が一周回り切った年齢差は一生に縮まりはしない。
 その歯がゆさに奥歯を噛み締める。唇に歯を立てようとすれば、その人は血が出るからやめろと窘めた。そういうところがずるい、その優しさにまた体温が上がってしまう。
 けれど、自分の体温が上がれば上がるほど、その人の変わらぬ体温がこの人との間にある大きな溝を知らしめる。それを知っていて、その人は手を離そうとしない。ずるい人だ、本当にずるい人で、どうしようもなく好きな自分を殴ってやりたい。
「お前格好いいからきっとかわいい彼女ができるって」
「……じゃあ貴方がなってください」
「俺は女じゃないから無理かな」
「じゃあ彼氏」
「それもちょっと」
 暖簾に腕押し。糠に釘。馬の耳に念仏。何を言ってもこの人は聞き流す。
 もっと真剣に聞いてくれ、そう叫んでやりたい衝動をぐっと堪えて飲み込む。自然と握る手に力が籠もっても、その人は顔色一つ変えずに笑っているだけ。ああ腹が立つ。
「……絶対振り向かせてやる」
 決意表明と共に力一杯握り占めると今度は相手も握り返した。その力の強さに痛いと声を上げると相手は喉を鳴らして笑う。
「まあせいぜい頑張れよ」
 変わらぬ飄々とした態度とは裏腹に、掌越しに感じたその人の温度がほんのわずか上がった気がした。



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