部誌13 | ナノ


午前4時の空



あーでもない、こーでもないと口々に言いながらクローゼットを漁る二人を、少年はぼんやりと眺めていた。
自分の“種族”と、その“種族”故に抱えた膨大な情報以外は何も持っていなかった少年は、気付けば妖異局に所属しているという男に保護され、自分を知っているというアヤカシに次々と引き合わされ、現在、やたら大きな屋敷の一室のソファに座っている。
ほんの数時間の出来事だ。

「ハリー、これとかどうかしら?」
「しゅうサマ、はりサンは男性デス。そして、それはどれすデス」
「あら。ドレスが女だけの服だなんて、誰が決めたというの?とても似合いそうよ?それに、ドレスは私も着るわ?」
「ふむぅ」

美少女とも美少年とも見える“月下美人”の珠兎と、美少女然とした使用人の服に身を包んだ“人形”の光稀は小気味よいテンポで会話をし、少年に何を着せるかを話し合っている。
どう反応を返せば良いかわからずに少年が黙っていても二人は気にした様子もなく、あーでもないこーでもないと話している。
そうして数時間放置され、ようやく何を着せるか決めたらしく、光稀は少年を軽々と抱え上げると風呂場へと運んで行った。
少年が嫌がる素振りを見せるのも無視をし、少年の全身をぴかぴかにした光稀は少年に服を着せ、再び抱えると珠兎の待つ部屋へと運んでいった。

「しゅうサマ、お待たせしまシタ」
「うん。待ちくたびれたよ、ミッキー」
「服選びに時間かかりまシタからネ」

大きなベッドの上で寝転んでいた珠兎は目を擦りながら頷き、光稀は少年を珠兎の横に下ろした。

「ふふ。よく似合ってるよ」
「……」
「また会えて、私は嬉しいよ」

ぼんやりと珠兎を見つめる少年に珠兎は柔らかく笑いかけた。
珠兎のその言葉に、笑みに、少年の胸の奥で揺らめく感情があるのは確かだが、その正体を少年は知らない。

「今度は、勝手に、どこかに行かないで…ね」

そう言ってことりと眠りに落ちてしまった珠兎に少年は戸惑ったが、脳裏に『“月下美人”は日の出近くになると意思とは関係なく眠りに落ちる』という情報が閃いた。
そんな珠兎の向こう側に見た空の色を、少年は初めて見るはずなのに何故か懐かしいと感じていた。



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