部誌12 | ナノ


○○始め



「え、今年正月休みあるんですか」
「毎年毎年、正月にまで来る客はろくな奴が居ねぇだろ、せっかくの正月に嫌な客でも入れなきゃ困るほど金回り悪くはないしね」
「なるほど、ならもう閉めちまえと」
「その方が余程、皆のやる気が出るってもんさね」

年の瀬、見世物一座座長の椿とその相方の牡丹は、営業後の後始末をしながらそんな会話をしていた。
翌日には座長の話の通り、今年は年末から年明けにかけて一週間ほど休みをいただくと店先におことわりが張り出されていた。
そして座長から、一座のみんなに伝達があった。
正月休みの間は、花街の決まりにのっとっていれば、自由行動。
好きなことをして、のびのび過ごせばいいと。

「・・・自由、行動?」
「そう、自由行動」
「花街の門番のおっちゃんに許可もらったら都築様の所行っても良いってことですよね!」
「そう言うと思って元日からだけど、外の宿泊許可、もらっといたよ」

そして、元日。
牡丹は花街の門番に外の街での宿泊許可証を渡し、とてつもなくいい笑顔で飛び出して行った。

都築は軍人だ。
基本的には軍の寮に住んでいるのだが、正月の間は家に帰っていると聞いている。
そして牡丹は今日のこの出来事を都築に話していない。
いきなり家に行って驚かせてやろうと考えていたのだ。
考えていたのだが。

「都築様!」
「やあ、来たね、いらっしゃい」

都築の家にたどり着き、すぐに家に飛び込んだ所で、都築が玄関でお茶を飲みながら待っていた。
可愛い牡丹が自分の家にやってきたと、にこにこしている都築とは裏腹に、牡丹は物凄く複雑な顔をしていた。
彼の家に来ることが出来た嬉しさはもちろんあるのだが、彼の驚いた顔が見られると期待していたのに、どうして自分が来ることを知っているのか。

「牡丹、そんな顔しない。それにいくら考えても答えは一緒でしょ」
「ですよね!座長ですよね!連絡したの!」
「はい正解。正月牡丹がお邪魔してもよろしいですかって連絡してくださったよ」
「驚かせようと思ってたのに!座長の馬鹿!」

ぷんすかと怒っている牡丹を、また嬉しそうに眺めている都築。
先日、牡丹を身請けすると約束してから、今まで以上に働くようになった都築。
そのため、軍でも見世物一座に行っても、疲れ果ててただ眠るだけの日々だった。
正直なところ、かなりの欲求不満状態になっていた。
そんな中、今回の話が舞い込んで来たのだ。
可愛い牡丹をこれから数日間、独り占め出来る。
受け入れない理由が見つかるはずも、なかった。

「ほら、牡丹、怒ってないでこっちへおいで。ここは寒いだろう、奥の部屋を暖めておいたから」
「お雑煮とかあるんですか?!」
「そっちはまた後でお腹が空いてから食べようね、だから、まずはこっちにおいで」
「・・・えへ、俺ちょうど、寒いなーって思ってたんです、あったかくなること、したいです」

都築に案内され、見慣れぬ家、けれども愛している人の家へと入っていく牡丹。
招かれた先で待っていること。
見世物一座では何度も経験したこと。
けれど今日はまた状況が違う。
新年早々、こんなに幸せでいいのだろうか。
そんなことを思いながら、都築に手を引かれるまま、牡丹は部屋の奥へと消えて行った。



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