部誌10 | ナノ


紅茶とケーキと笑い猫



「ここは・・・どこだ」
呆然と呟く。そして、自身の格好を見て、目眩がした。青いエプロンドレス。裾がふわりと揺れる。大の成人した男がフリフリのエプロンドレスってどういうことだよ。普通に駄目だろ、勘弁しろよ。
目を覆いたくなる現実に頭痛を覚えた坂田銀時だったが、不意にある事に気付いた。違和感がある。ゆっくりと額を押さえる手を解いて銀時は胸元に視線を落とした。見て分かる大きな二つの膨らみ。肩を張らせる重量感。少し身体を揺らせば、膨らみも弾力を持って揺れる。ああ、これは胸か、と。

(・・・・・・胸?)
あるわけねぇだろ
当り前の様に納得仕掛けたところで、不意に我に返る。服装もさる事ながら胸ってどういう事だと。とりあえず己の両胸の膨らみを勿体無いので揉みしだきながら銀時は嫌々ながら現状理解に勤しむ。
周囲にはメルヘン調なキノコや花が咲いている。空を飛んでいるのは――パンだ。バターブレッド。バタフライにかけてバターブレッドかふざけんな面白くねぇんだよ、という言葉をグッと飲み込む。飛んでいた一匹のバタフライと目が合う。爽やかに笑って手を振り飛び立っていく姿が腹立たしい。

「こんなところにいたんやね、銀子」
不意に声がする。銀時は辺りを見渡すがまるで声の主が見当たらない。それに銀子って何だよ、と。いつぞやに性別が入れ替わった時を思い出すその呼び名に銀時は眉を顰めた。同じ、だ。あの時と。

「・・・ここだよ」
直ぐ傍で声が響いた。耳に良く馴染む、慣れ親しんだ声。わざわざ顔を見ようとしなくても分かる。蘇芳色の双眸をゆっくり何もない空間に向ける。姿なきそれが僅かに笑った気配を感じた。そうだ。
「なまえ・・・オメー何やってんだ」
姿も見せずに。呆れた声でそう告げれば、今度は隠そうともせずクスクスと笑い声が周囲に響いた。未だに姿を見せないなまえに少しだけ苛立ちが募る。何のつもりなのかと。「おい」と、返事を促す。
「そんなにカリカリせんといてよー、紅茶飲む?」
飲む、と返事するより先にポッドを押し付けられたら反応の仕様が無い。否、ある。ヒリヒリする。次いで頬に広がる熱。「あっつ!それ熱っつ!!」咄嗟に悲鳴に似た声が出た。それさえも笑う声。ふと視線を上げると、そこには茶色と白色の猫耳を生やしたなまえが優雅に紅茶を飲んで佇んでいた。

(紅茶とケーキと笑い猫)
「おいでよ、向こうにケーキも用意してあるんだ」



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