部誌1 | ナノ


君の体温



「よう、眠っておる」

目の前ですやすやと眠る捺の頭を撫でてやる。
業の病と知った時、その時はこの様に誰かと眠る事が出来るとは、思いもしなかった。
人として生きる事すら出来なくなるものだと思っていた。
実際、この娘が居なければどこまで人でいられたかどうか。
幼き頃、根住みの娘として壊れていたこの娘。
人の心根を読むために利用されるべく連れてこられた。
成長するにつれ、普通の娘と変わらなくなってはいたが、心根を読む事に長けているということは変わらなかった。
結局は使い物になるかどうか判別する前に、病の我の世話係として女中になる事が決まってしまったが。

「ヒヒッ、やれやれ」

もぞもぞと足を動かし、我に足を絡めてくる。
こんな無防備な娘だが、こやつが我に小さな想いを抱いているという事も気付いてはいる。
だが、幼き頃からこやつの教育係としても関わってきた我。
ここまでの成長を見守ってきた結果、この娘は未だ家族の一員という感覚でしかない。
しかし、家族として、時にはこうやって共に眠るのも良いだろう。

良き抱き枕を抱え、我は眠りについた。


「よ、吉継様、吉継様!朝にございます、その、離してくださいませ」

胸元をぽんぽんと叩かれ、ふと目が覚める。
ぼやける目で見れば、困り切った顔の捺がいた。
どうやら、よほどこの抱き枕を抱いての寝心地が良かったか、朝までそのままだったようで。

「じょ、女中の仕事が始まってしまいまする、支度もありまするゆえ・・・!」

わたわたともがいている捺。
少々困らせてもやりたいが、仕事に差し支えてはさすがに申し訳が立たない。
抱きつく手をゆるめてやれば、安心したように一息つく捺。

「良く、眠れたか?」
「・・・はい、とても」

少し照れた様に笑った後、するりとゆるんだ我の腕から抜け出した。
そして少し乱れた着物を直し、離れの襖をすすと開く。

「よい天気にございますよ、久しぶりに朝早くにお目覚めになられたのです、たまには散歩にでも参られては」
「ヒヒッ、そう言って我を追い出し離れを掃除する気であろ、そうはゆかぬわ、我はまだ寝る」
「もう!本当にお寝坊さんにございますね!」
「寝坊助で良い、ヨイ」

そう言い、我は布団を被り直し、目を閉じる。
すると近づいてくる捺の足音と気配。
枕元に座ったと思えば、我の頬に捺の手が触れる。
かすかに、かすかに我の頬を撫でた。

「ゆっくり、休んでくださいね」
「・・・・ヒヒッ、オヤスミ」

頬に触れられた、心地よきその体温を感じながら
我は再び眠りについた。




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