部誌1 | ナノ


まやかし



「サチってさ、ほんとに優しいよね。なんで?」

なんの前触れもなく、気づけばいつも自分のとなりにいる友人に問う。私は彼女のことが一番好きで、彼女もおそらく、私のことが一番好きなんだと思う。
思考回路がとつぜん切り替わって話の内容が飛んでしまうのはいつものこと、私のことを一番理解してくれているのであろう彼女はその突発的な質問に驚くこともなく答えた。

「優しいのは、好きなひとだけだよ。他は、どうでもいい人とか、いい顔してるだけで、偽物」
「わたしは?」
「本物だよ、言わなくてもわかるじゃん」

じゃあどうしてそんなさみしい顔をしているの?
そんなこと聞けるわけもなく。
あぁ気まずくなってしまった、なんて遅い後悔。
反射的に謝罪しかけて、出かけた言葉は喉元で引っ掛かって、詰まった。

サチが私に優しいのは、 私に同情してるからじゃないの?

なんてつまらない発想なんだろう。
だけど気分が落ちてるときには考えてしまうの。わたしはあなたと違って社交的でもないし、気遣いも上手じゃない。サチを信じているしそんな、同情されてるなんてこと絶対にないと理解していても。
この、ぼんやりと見える溝をどうやって埋めたらいいんだろうって。
言葉にして確かめることは大切かもしれないけれどどこか恥ずかしくてためらってしまう。
たまに押し寄せるこの靄のような不安感をどうにかしたくて、でも距離感がわからなくて、空回り。
君が生み出すこの靄をはらってくれるのはいつも君で。気分が晴れたそのときには、あぁまたまやかしだったって、思えるんだけど。

チョコを持った手を差し出されてはっとした。いつものようになにも言わずに受け取って口へと運ぶ。

「なにを悩んでんのかわかんないけどさぁ、いいんじゃないの、べつに」
本当になにかあったら、私に言ってくるんだし。そんなに悩む必要ないよ、たぶん。
彼女は続けた。
いつのまにか私のなかの靄は消え去っていて、ぼんやり上の空。

気分屋な私の思考は今日の夕飯のことに切り替わっていた。
オムライス食べたいなぁ。あ、お味噌汁と焼き魚でいいかも。たくあん欲しくなるなぁ。

「そろそろ帰んなきゃ学校しまるよ」
サチの言葉でまた我に返って、あぁ帰らなきゃなのかぁ、もっと話してたいのに。なんてとても気恥ずかしくて口には出せないようなことを考えながら、くたびれたカバンを手にした。



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