部誌1 | ナノ


ひとひら



雪が、舞う。
深々と降り積もった雪は、地面など簡単に覆い尽くした。
田畑は雪に覆われ、人々の生活路など、もっと簡単に消え失せる。
山肌は積もった雪の重みに耐えきれず、雪崩を起こして人を飲み込んだ。
年々増す豪雪の被害に、人々は頭を抱える。
そんな中、一人の預言師は言う。

「たったひとつを消せば、世界はまた続いてゆくのです」

雪の被害が甚大になる中、その言葉は、容易に受け入れられた。



前に降り立ったときよりも、激しい雪の被害が目に入る。
何度目かの運命の時期。
一面銀世界とは、このことだ。たしか、季節的には秋だったと思われるのだが。

「あいつも面白い世界を作っているよなあ」

男は塔の上に立ち、そう独り言をつぶやく。

「さて、愛しの黒鷹はどこに居るのかな」

肌を突き刺すような寒風の中、男の恰好はとても寒そうに見える。
だが、本人はそうとは思っていないらしい。
塔のてっぺんで、辺りを三百六十度見渡すと、男はある方向を指差した。

「見つけた」

そして男は、塔から降りた。階段を伝って降りたとかではなく、まさしく落下だ。
そんなことをしては、地面に叩き付けられるのは当然の結果のはず。
だが、男の姿は忽然として消えていた。

男も、異端者の一人であるからだ。



黒鷹は、花白と旅を続けている玄人の様子を遠くから見守っていたところだった。

「苦労を好む魂なのかな、玄人は……」
「歴代の玄人らしいじゃないか」

独り言として喋っていただけなのに、それに相槌が挟まれたので、黒鷹は目に見えて驚いてみせた。
振り向いてみれば、自分の主である研究者と似たような恰好をした男が一人。

「……研究者どの、今回は主に許可を得てちゃんと来たんでしょうね?」
「当たり前だ」
「……ならかまいませんが」

以前、この世界を創った主の友人であるこの研究者が、主に無断で世界に入り込んできたことがあったのだ。
あれには白梟がたいそう憤怒していた。あの彼がそんな表情も見せるのだなと、黒鷹は驚いたくらいだ。

「で、聞くだけ無駄な気はしますが、今日のご予定は?」
「聞かなくてもわかっているなら、言う必要性はないな」

背後から抱きしめられ、黒鷹は戸惑った。
この主の友人である研究者は、こともあろうか、創られた存在である黒鷹を好いているというのである。
にわかには信じがたいが、今まで見てきた彼の行動、言動から察するに、嘘ではないのだろうなとわかる。それが嫌だ。

「ああ、また雪がふってきた」

ひらり、ひいらりと、ひとひらの雪が黒鷹の帽子に落ちた。
それに続けと、空からはたくさんの雪の花弁が落ちてくる。

「雪は、美しいとは思うがね」
「…………」
「私は、この世界にお前が縛られているのが気に食わないよ」

地面の雪を掬い取り、体温によって溶けてゆくさまを見ながら、研究者は言った。

「私のところへ来たらいいのに。そんなにあの運命の二人が、好きかい?」

赤と金のオッドアイがこちらを見つめる。

「半ば、親の心境でしょうね。そんなことを言ったら、彼らは怒るんでしょうが。」
「子持ちの黒鷹は嫌だな……」
「そういう話にズレるんですか?」

真面目に返したのに、研究者の彼には変な方向で受け取られてしまった。
こういう点が、研究者といわれる所以のような気がしてしまう。気質と言おうか。

「ああでも、私との子供……それはいいかもしれない。おい、お前のところのと話をつけてくる。次会うときは、私たちの子供を連れてきてやる。楽しみにしていろよ?」
「は? ちょっと待ってくださいよ!」
「じゃあな。愛しい人」

黒鷹の頬に口づけをすると、研究者はまた世界の外へと行ってしまった。

「……あの方は、いつもこうなんだから」

そんなため息とともに呟かれた言葉を聞くものはいない。




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