部誌1 | ナノ


ホットチョコレート



久しぶりにお互いの休日が重なったから、今日はのんびり。と言っても私の休日は世間一般と同じように固定されているから、あれなのだけど。
ソファにふたり並んでぼーっとして、なんでもない話をするだけ。同じ空間にいるだけ。それでも立派なおうちデートだなんて、私は思っている。あたためた牛乳にチョコレートが溶けていくのをなんとなく見つめながら、クッキー食べたい…なんて呑気なことを考えていたら、静かだった空間に彼の低い声が響いた。

「そんな甘いのよく飲めるね」

私のマグカップを見つめている彼の顔は不思議そう。と言っても、いつもの無表情である。

「そんな苦いのよく飲めますね…」

だってそれ、真っ黒。私のホットチョコレートも似たような色をしているのに、彼の飲んでいるブラックのコーヒーとは正反対に甘い。

「うまいよ」
「ホットチョコもおいしいですよ」
「うーん、でもやっぱり焼酎かな…」
「ちゃんと栄養もとってください」
「たこわさじゃ駄目?」
「ちゃんと愛情たっぷりのご飯作ってるじゃないですか」

ほっといたらまた焼酎と日光だけで過ごしちゃうでしょ、だめですよー、とマグカップの中身を冷ましながら言うとなまえが俺をほっとくなんてことないだろ、と即答された。いやまぁ、そうなんですけど。反論できないのをごまかそうとマグカップの中身を口に入れる。甘い。疲れるとどうもこの甘さが欲しくなるのだ。

「…でも、いくらお仕事無理しないでくださいねって言っても聞いてくれないし心配です」
「……」
「な、んですか…」
「あ、いや、なんか素直だなって」
「本心ですよ」
「わかってるよ」

マグカップをひょいと奪われ、手の行き場を失った。ソファに押し倒されてその手を拘束される。キスされる、なんて考えたけれどいつまでも視界は暗くならなかった。その代わりに、一瞬おいて、体に少しの衝撃。

「…笹塚さん、どうしたんですか」
「んー、うん」
「あ…あの、」
「なまえってなんでこんなにいい匂いするの?」
「どうしたんですか疲れてるんですか」
「んー、うん、疲れてる」

胸に顔を埋められてそのまま、というのはその、なかなか恥ずかしいものがある。まるで内からも外からも心臓を攻撃されているような。

疲労しているのを隠さずに甘えてくるのは珍しくてなんだかペースが狂う。休日ぐらい体を休めてほしいとは常日頃から伝えているものの、こう、抱き枕状態にされる予想外の行動と恥ずかしさで頭が爆発してしまいそうである。しかももう寝ている。速すぎる。いつも寝起きがつらそうだから起こすに起こせない…、ということも把握した上でのこの行動なのだろう。してやられた感。悔しい。
考えても無駄だから私もこのまましばらく寝ることにしよう。普段ならとてもできないけれど、今なら気付かれないと、視界に入る伏した頭を優しく撫でる。

ローテーブルの上に避難したマグカップの中のホットチョコレートは、再び目が覚める頃にはすっかり冷めきっていた。




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