部誌1 | ナノ


ホットチョコレート



俺の友人には案外甘党が多い。
それも、えっお前が?というような意外性に富んだやつがである。
最初にそうだと知った時は何度も聞き返してしばかれたものである。
意外なやつがそうなのであるから、バレンタインデーとかいうのには貰えないだろうと思っていたのに、当日は奴らのゲタ箱やら机の上は綺麗に可愛くラッピングされた箱が山になっていた。
どうやら奴らには水面下でお熱な子が大量にいるらしい。
俺はと言えば、ねーちゃんの義理しかもらえてませんよちくしょう!
後ろから前から甘ったるい匂いを嗅ぎながら一日は地獄でした腹てきな意味で。
昼飯食ったって育ちざかりの男子高校生にとってはそんな匂い嗅いだらすぐに空腹になるっての。
ああ…帰りにどっか寄ろう、一人で。
帰宅部は俺しかいねーからな。つか紙袋にいっぱいのチョコの山持ってるやつらとファミレスとか周りの目が痛い。
とんとんと玄関ホールで靴を履き替える。
そう言えば、マクドのクーポンが…とケータイを操作していた時だ。

ダダダダダダダダダ

ものすげぇ、それこそ競走馬並みの足音を響かせながら走る音。
まぁ、このガッコでこんなのは結構当たり前なわけで、無視していた。
この一瞬後には後悔するが。
背中に衝撃が来たと思ったら、急激に床がせり上がってきてあっついキッス。
いや、倒れたんだよと思ったのは背中にかかる体重と、押し倒した奴が声かけたからだ。

「そこにおりましたか!なまえ殿!」

甘党第一のわんこよ、いいからそこから退いてくれ重い窒息する。
そんな思いを感じてくれたのか(多分違う)幸村は退いて俺の襟首をむんずと掴んだ。
……ん?襟首?

「なんっ、ぐええええっ!」

カエルなのは御愛嬌。汚いとか言った奴は出てこい、俺が襟首掴んで引っ張ってやるわ!!

「おまっ、どこっ、うげっ」
「少々付いてきて下され」

付いてくっつか引っ張られてんですけど!
自分で歩くから離してくれおいこらそこ笑ってんな!!
ちょっとだけ三途の河で幼稚園の時に死んだばぁちゃんが見えた頃(生前とかわらずスクワットしてた)やっと離された。
息を整えながら立ち上がれば、そこは教室で、掲げられたプレートには調理室の文字。
幸村は我が物顔でドアを開けて入って行った。
俺も同じように入っていくと、そこには甘党第二、第三の三成と元就が。
あれ、そういえば調理部ってここが城じゃなかったっけ?
おおおおおつかくっそ甘い匂い!

「今日は生徒会で借り切った」

おーそっすか。三成公私混同。つかほんとなんで心読めんの?

「で、なんで俺は幸村に拉致られたん?」
「拉致などしておらぬ!」

あれを一般常識では拉致なんだよ。

「うむ。貴様にこれをくれてやろう」

元就はそう言いながら陶器のカップを俺に付きだした。
どうやら甘い匂いの根源はこれらしい。
受け取って見ると、茶色い液体。
おま、まさか、これ…

「今日は日ごろの行いをねぎらい、甘いものを渡す日だと聞いた」

うん、ちょっと違うね。吉継サンあたりから吹きこまれただろ。
元就あたりは知ってるはず…あ、こいつ楽しんでるわ、口元ピックピクしてる。
……ま、男同士で愛だのラブだの言ってる方がアレだし。
これはほんとありがたいと思います。労ってくれてるわけだし。

「…サンキュ、な」

にっこにこしてる幸村、ちょっと気恥ずかしそうな三成、面白くない顔してる元就…元就、お前の思いは分かりにくいわ。
カップを傾け、一口。

「……こゆっ!え、お前ら、これホントにチョコ溶かしただけ?」
「それが作り方でござろう?」
「ちっげーよ馬鹿!牛乳とか生クリームとか入れて溶かすんだよ!」
「なっ!毛利!貴様、虚偽を教えたのか!」
「なんでもかんでも我に頼る貴様らがいけない」


結局その後、自販機で牛乳買って残ったチョコでホットチョコレートを作って飲ませました、俺が。




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