部誌1 | ナノ


嘘と本当



旦那の使いで見つけた甘味処

任務の帰りに必ず寄って
旦那の好きな団子を買うのが、悲しいかな日課になりつつある





『あ!!猿飛さんいらっしゃいませ』

「なまえちゃん今日も元気だね〜
 あ、そうそういつもの頂戴」

『はい!かしこまりました
 出来上がるまで、お茶でもどうぞ』

「いつもありがとね」





【いえいえ】と笑って
俺に団子とお茶を出してくれる

なまえちゃんが淹れてくれるお茶を飲むと
体から疲れが吹っ飛ぶようで
気が休まることのないこんな仕事でも
ここに来る時だけは癒される






『いらっしゃいませー!』

「嬢ちゃん今日も元気だな」

「本当こっちも元気になるよな
 あ、いつものやつ頼むわ」

『は〜い!』






団子を待ってる間、元気な声が聞こえてきたので
店内を見渡すと、見たことのある顔がちらほら

これもなまえちゃんの人柄だろう
ぼーっとそんな光景を見ていると
なまえちゃんと目が合って




『猿飛さん!はいこれいつものです
 幸村様にもよろしくお伝えくださいね!』

「うん、ちゃんと言っとくよ」

『また来てくださいね〜』

「まあ…明日も来ると思うけどね」






【待ってますから!】
とそんな笑顔で言われたら、旦那の使いも悪くないかなって
最近は思うようになった






「佐助、お主にやってもらいたい仕事があるのだが」






団子を買いに来ながら
ついにその任が下ったかと思った
旦那には暫く別の店の団子を食べてもらわないといけなくなる





『猿飛さんいらっしゃいませ
 今日もいつものですか?』

「え?ああ…うん頼むね」

『はい!って元気ないですね?
 どうかされたんですか?』

「ん〜?何でもないよー」






ケロッと笑って見せれば
なまえちゃんも笑ってくれて
この子はやっぱり笑った顔がよく似合う

いつもよりため息が出ていたらしい
なまえちゃんが心配そうな顔で
俺様の傍までやってきて
いつものお茶と団子を出してくれた。






『どうしたんです猿飛さん
 いつもの猿飛さんらしくないですよ?』

「え?そう?いつもの俺様って
 なまえちゃんにはどう映ってるのかね」

『そうですねえ…
 いつも元気に声をかけてくれてって
 私元気を分けてもらってるんですよね』





楽しそうに俺様のことについて話す彼女
そんなに観察されてたんだなって
忍びながら恥ずかしいやら、驚くやらで

今日は店も暇らしく
世間話に花を咲かせてた





「おっと、俺様そろそろ帰るねー」

『はい!また明日来てくださいね!』

「うん、またすぐ来るから」

『待ってますからねー』






元気に手を振って見送ってくれるなまえちゃん
本当活発な子だよ





「元気を分けてもらってるか…
 それは俺様の方なんだけどなぁ…」






少し顔をニヤつかせながら
旦那の待つ屋敷へと戻る
いつもの如く目を輝かせて
あっという間に平らげちゃって…




「さてと…お仕事しましょうかね」






今夜は大仕事になる
部下たちに指示を出し
闇に紛れて任をこなす

夜の帳が落ちた町
あたりを見渡せば人は愚か
畜生まで姿を消していて






「さあて…どこに隠れてるのかな…」






気配を殺して、標的を待つ
部下に合図を出しながら
標的が潜んでいるであろう場所へと近づいていく

戸に手をかけた瞬間
中から攻撃されて間一髪で避けた
あれに当たってたら、死んでたな…
トリカブトでも塗ってるだろうし…






「ねえ、あんたコソコソ何してんのかなー?
 目的は知ってるよ?大将の首でしょ?」

「……」

「悪いけど、生きて帰れると思わないでよね
 あんたはここで、死ぬんだからさ」

「…っ」






ああこの忍、身のこなし中々だな
こりゃ気を抜いてたら
俺様がやられちゃうかも…
なーんて…そんな簡単に俺様やられないけど

ぎりぎりでかわして
無防備になった背に一刺し
よろけた所に首を掻っ切る
あたり一面に赤が広がって
標的はその場で崩れ落ちた





「…やっぱり…」





顔の布をめくると
そこにいたのは紛れもなくなまえちゃんで
青白い顔で口を小さく動かしてた





『やっぱり‥猿飛さんには…敵わないや』

「まあね、これでも長だからね」

『…信長様…申し訳…ありま…』

「はいはい…もういいから
 ゆっくり眠りなよ」





目を開いたまま、その瞳がどんどん濁っていって
そっとまぶたに手を添えて目を閉じさせる

本当はあんたが何者かなんて知ってたよ
知らないふりをしてずっと泳がせてた
いつ尻尾を出すかって

あんたさ優秀だよ
だってこの俺様と部下達でさえ
中々尻尾を掴めなかったんだもの

もう少し早く普通に出会ってれば
一緒に仕事したかったよ…

ねえ、あの時俺様に向けてくれた言葉は
本当って信じてもいいのかな
今更聞いたって答えてくれないけどね。




prev / next

[ back to top ]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -