部誌1 | ナノ


嘘と本当



「ダウト」
『…………』

俺の声に球磨川は内心の読めない、そしてそもそも感情も出ていない「表情」で手札を見つめると、バラッとまるでいらないものを捨てるように手首から力を抜いてカードを机に降らせた。
見抜かれた時点で勝負が決まるわけではないのに、どうやら飽きたらしい。

『……トランプって本当、不思議なカードだよね。負ける奴は負けるように出来ている』
「台詞使いまわすんじゃねえよ。殴るぞ」

これでもう勝負は何回目だろうか。
たかが二択でこうも負け続けられる人間が居るのかと頭を抱えたくなる。

ただの十三組である俺と、マイナス十三組の球磨川が合うきっかけは善吉と仲が良かった事から始まるのだが、それはともかく最初の出会いはこいつにとってはいつも通り、俺にしてみたら人生で初めて、と言っていいほど最悪だった。
生徒会副会長という役職についたばかりのこいつは、変えようもなくマイナスだったし、俺はプラスの人間で、どう考えても敵対するしかなかった、はずなのだが。
比較的球磨川に対してまともな対応をしていた俺に黒神は何を勘違いしたのか、同級生として一応転校生である球磨川の面倒を見てやってくれ、と頼まれてしまったのだ。

プラマイゼロ。とはよく言ったもので。
「負」に落ちないながらもあれこれ世話を焼いているうちに、どうも俺は球磨川を放っておけなくなってしまったらしい。
3歩、歩くだけで負けているような、どうしようもない所がどうしても気になってしまうし、人生で負けたことしかないこの男を勝たせてやりたいと間違って思ってしまったのだ。

俺が、最初に負ける相手でもいいかもしれない。と。


その結果がこれだよ。



手始めに、何かと縁のあるカードゲームはどうか、と二人でやるカードゲームの定番。戦争やスピードをやってみたのだが、当然のように球磨川は勝てないし俺は負けない。
考えた挙句、選択肢が二択しかないダウトはどうか、と無理があるのを承知しつつ、一人二役でダウトを始めたのが、これが恐ろしいくらいに球磨川は当たらない。
俺と言えば、最初は、ダウト、スルー、ダウト、スルーと交互に繰り返していたのだが、当たるのだ。
途中で順番を変えても、適当に言っても当たる。
そして球磨川は延々とその逆だ。

平然としている球磨川にむしろ俺が落ち込んでくる。

『気にすることないよ。なまえちゃん。僕が勝てないのなんていつも通りだし、こんな普通のゲームで君に勝てるわけがないし』
「そうやって諦めるな。こうなったらお前が勝つまでやめないぞ。腹が立ってきた」
『その台詞って立ち位置的に僕が言うセリフだよね。ほんっとなまえちゃんって変な所頭固いよね。アブノーマルってみんなそうなの?』
「一緒にされると流石に困るんだけど」

特に、規格外すぎる彼女と俺は比べ物にならないだろう。
登校免除組とはいえ、俺はぎりぎり、その末端に居るだけだ。

「ダウトはこれで最後にして、また次のゲーム考えよう。なんかフェアなのないかな」

言いながらカードを切って配り直す。
次の初手は俺からだ。

『君と僕がフェアになるって事がそもそもないんじゃないかな。ほら、そもそもプラスとマイナスじゃ立ってる高さが違うでしょ?』
「やっぱりお前は嫌いだ。オープンザゲーム、い」
「ダウト」

1、と言うか言わないかで仕掛けてきた球磨川に、俺は出しかけておたカードをそのままに球磨川を見る。

持っているカードは1だ。
それを裏返して見せながら、俺は何も言えずに黙りこむ。
読み負けたのは球磨川の筈だ。
なのに、まるで直前の言葉に対して言われたようで、事実、きっと球磨川は――。

『前に比べて、負ける事が悔しかったはずなのに、どうしてかなまえちゃんとの勝負は楽しいんだよね。多分、君が僕以上に悔しがって、僕の事を想ってくれてるからかな』

そして球磨川は、口元を押されて熱くなった頬を隠した俺に、にやり、と笑う。


『また勝てなかった』




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