部誌1 | ナノ


スイーツ



自分の部屋に戻ってきてドアを開けた瞬間、なんとも言えない香りにライは思わず顔をしかめた。

「ユイ?」

いつもならベッドの上に居るはずの同居人の姿はなく、代わりにケーキ屋の箱やクッキーの空き箱などが散らばっている。
シャワールームから音が聞こえてくるから、きっとそこに同居人はいるのだろう。

「散らかしたら片付けろって言ってるのに…」

ベッドの上のゴミはゴミ箱。シーツは取り敢えず取り替えて洗濯機。窓を全開にして、取り敢えず一服。

「……あ、ライ。早かったね」
「おう」

濡れた髪を適当にタオルで拭きながら、トランクスにぶかぶかなTシャツという姿でユイはぺたぺたとシャワールームから出てきた。

「誰が来た?」
「兄さん」
「どっちのだ?」
「つぅ兄」
「やっぱりアイツ、外回りとかうまいこと言ってここ来てたか…」

溜息をついて煙草の火を消すライを、ユイは長い前髪の向こう側からじっと見つめた。

「何してたんだ。ベッドの上で」
「えっと、『お兄様の手からお兄様が大好きなユイのために選んできたスイーツを食べるだけの簡単なお仕事』って言ってた」
「なんだそりゃ」
「さぁ?」

のそのそとベッドの上に乗るユイの言葉にライが顔をしかめるとユイも軽く肩をすくめるだけで、どういうことなのかよくわかっていないらしい。

「ただ、」
「あん?」
「途中で前後不覚に陥ったから、兄さんがいつ帰ったかもわかんない」
「前後不覚?お前がか?」
「うん。……で、目が覚めたらなんか体がべたべただったからシャワー浴びた」
「ふぅん」

ベッドに腰掛けたライの膝の上にユイは向い合わせになるように座り、ライはユイの髪を拭いてやりながら少しだけ首を傾げる。
ユイが前後不覚になってしまうだなんて、一体どういうことだ。

「…あ、そういえば、兄さんが持ってきた香炉から不思議な匂いしてた」
「……へぇ」
「あと、兄さんが『ライに渡して』って荷物置いてった」
「荷物?」
「うん。それ」

一旦髪を拭く手を止めてユイをベッドの上に下ろし、億劫そうに立ち上がって机の上に置かれた箱を開けて覗くと、少し癖のある字で「ライへ」などと書いてあるメモが折りたたまれて入っている。
あまりいい予感のしないそのメモを開いてざっと目を通すとライは大げさに舌打ちをし、ユイの横に戻ってきた。

「なんだったの」
「くっだらねぇ内容と中身だよ」
「ふぅん」

もう一度ユイの髪を拭いてやると、ふわりと香る嗅ぎなれたはずのユイの香りに、違う香りが混ざっていることに改めて気付かされる。

「……ユイ、髪はあらかた乾いたから着替えろ。訓練場に行くぞ」
「どうして?」
「お前がアイツの香りさせてるかと思うと腹立つ。空っぽにして、入れ直す」
「はぁい」

髪を拭くのをやめてクローゼットに向い、ぽいぽいとユイにライは着替えを投げつけ、ユイはそれをもぞもぞと着ながらライを見上げ、ライの言葉に納得すると着替える速度を少しだけ上げた。

「ねぇ、ライ」
「なんだ」
「入れ直すなら、基地から近いケーキ屋さんのスイーツがいいなぁ」
「は?あそこが一個いくらするかわかって言ってんのか?」
「お金は兄さんたちに払わせればいいんだよ」
「……なるほどな」

着替えを終わらせてぴょんと跳ねるように床に降りたユイの頭をぐしゃぐしゃと撫で、ライはユイを抱き上げた。

「ユイ」
「なに?」
「次からはアイツらが来ても部屋に入れるな」
「どうして?」
「信用ならねぇ」
「兄さんだよ?」
「アイツらはあくまでも“兄型”だろ。兄じゃない」
「そうだけど…」
「お前は、俺のだろ」
「……しょうがないなぁ。主の仰せのままに」

拗ねたような表情のままユイは渋々といった様子で頷き、同じように拗ねたような表情のライのこめかみに口づけを落とした。

「あ、ライ。やっぱり先にスイーツ買ってこ。あそこのお店、期間限定商品が出てるって」
「おい、待て。基地のそばの店じゃないのか」
「スイーツは多ければ多いほどいいんだって」
「待て。買ってもいいが、それはどこ情報だ」
「兄さん情報」
「信用ならん!却下!!」
「ケチ」




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