部誌1 | ナノ


スイーツ



甘いものはあまり得意ではない。別に嫌いってわけじゃないんだが、自分から買うことはほとんどないし、誰かに貰ったときも食べたそうにしていた奴にあげてしまっていた。なんていうか、甘ったるさが口の中に残るのがどうもいただけないんだ。それなのに。






「……これは俺へのあてつけか?」
「さぁな。差し入れが余ったからみんなに配っているらしいぞ」

部屋に入るなり俺の目に飛び込んできたのは、デスクの上にこんもりと盛られたお菓子の山。驚きを通り越して呆れというか、もはや意味が分からない。俺が甘いものを好まないことは、検事局では周知の事実だと思っていたのだが。まぁ、この男がそれを知っていたうえで置いていかせたということも考えられる。

「ここにもってくるくらいだからな、相当処理に困っていたんじゃないのかい」
「俺に渡されたって処理できねぇっての。全部やる」
「もったいねぇな…これなんて結構有名なやつだぞ。並んでもなかなか手に入らないって配りにきた嬢ちゃんが言ってた、ほらよ」

ゴドーはそういって小さな箱を投げて寄越した。丁寧にラッピングされたそれを開けると、中には小さなチョコレートが二つ。俺にはそこら辺で売っている安いチョコとの違いが分からなくて、いったいこれのどこにみんな惹かれるんだかさっぱりだ。無言で手の上の箱を見つめる俺を不思議に思ったのか、お菓子の山を物色していたゴドーがこちらにやってくる。

「なんだよ美味そうじゃねぇか」

ひょい、と一粒つまみ上げてそのまま口へと運んだゴドーは味わうようにゆっくりと咀嚼している。それを視界にいれつつ、俺はデスクの上を片付けるべく、手近にあった紙袋に手当たり次第放り込んでいくことにした。ひとまず埋もれた書類たちを探し出さないとな。明日の裁判に向けて、今日のうちに資料を読み込んでおかないとやばい。俺は出そうになった溜め息を飲み込んで、目の前の敵と格闘を始めた。






「……お、見つけた」

紙袋がいっぱいになりかけたとき、漸く資料の束が顔を出した。これさえあれば明日はどうにかなるだろう。いい加減片付けが面倒になってきたところだったので、これ幸いと椅子に腰かける。……そういえばゴドーはどうしたんだ?数分前まではすぐそこにいたんだけどな。すると、タイミングよく部屋の扉が開いた。ゴドーだ、その手にはコーヒーカップを持っている。

「もう片付けは終わったのか?」
「資料が見つかったから切り上げた。なんだ、コーヒーなら俺の分も淹れてくれりゃよかったのに」
「ゴドーブレンドは高くつくぜ」

にやりと笑みを浮かべながらゴドーはこちらに近づいてきた。カップをデスクの端に置いて、まだ残っているお菓子たちを眺めている。全然片付いていないとでもいいたいのか?確かにデスクの三分の二ほどは未だお菓子が無造作に置かれているままだけれど、後できれいにしようと思っているんだぞ。そりゃ俺は片付け苦手だし、きっと呆れたゴドーが手伝ってくれるだろうと鷹をくくっているところもあるがな。すっかり自分の世界に入り込んでいたら、不意に肩を叩かれた。

「おい」
「ん?なんだよ、っぐ、んんっ!」

顔をあげたらいきなり顎を掴まれた。抵抗するまもなく、口の中に何かが放り込まれ、そのまま片手で口を塞がれる。丸くて固いものが舌の上を転がる感触がした。最初は小石でも突っ込まれたのかと思ったのだが、どうも違う。俺はそれがチョコだと理解するのに数秒かかった。じわじわと溶けたチョコが口内を侵食していく。甘い。

「味わって食べろよ?高いんだからな」
「んんっ、むぅ……」

頭上から楽しそうな声が降ってくる。抵抗するほうがコイツを喜ばせることになるということは明確だ。別に吐き出すほど嫌いというわけでもない。さっさと飲み込んでしまおう。そういう結論に至った俺はしばし無言で咀嚼に集中することにした。ゴドーは思っていたような反応が俺から返って来なかったようで、つまらなそうにこちらを覗きこんできた。

「甘いのダメなんじゃなかったのか?それとも甘くなかったのか?」
「……」
「オレにも味見させろ」
「……っ、んっ!」

ゴドーの顔がさらに近づいて、唇が触れ合う。お前さっき同じの食べていたじゃねぇか、そう反論しようにも口は塞がれてしまった。甘ったるい口内が、ねじ込まれた舌に残るコーヒーの苦みで徐々に緩和されていく。なんだかどうでもよくなって、俺はゆっくり目を閉じた。




prev / next

[ back to top ]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -