部誌1 | ナノ


ふわり、微睡む意識の中に



昼下がりの陽光が、木々とガラス越しに部屋へと注ぎこむ。
その光をたどれば、真っ白なシーツと薄手の掛け物に包まれた女性が一人。
季節は春。冬の寒さは和らぎ、日本から持ってきた桜が桃色の花を満開に咲かしている。
部屋の中は快適な温度で、彼女は時折身じろぐばかりで起きる気配がない。
そこに響く、とすとすという音。
毛足の長い絨毯では足音は吸収され、軽やかな振動しかない。
彼女の部屋で歩くのは、彼女のパートナーである黒ヒョウだ。
匣であり、ボンゴレ十代目の側近のみが持つ、ボンゴレ匣の中身である。
使用者の命とも言える炎を使って活動するため、戦闘以外ではあまり出されることはない。
彼女自身の炎もそこまで強くはないが、黒ヒョウが使う炎そのものが少ないことと炎を蓄えることで、彼女が寝ている間も自力で行動できるのだ。
黒ヒョウはベットへと歩み寄り、鼻先でむいむいと彼女の頬をつついた。
鼻先の冷たさと刺激に彼女は眉をひそめた。
ゆっくりと目を開け、また眩しさに目を閉じる。

「くぅん」

起きて、といいたいような鳴き声を上げ、黒ヒョウは顎をベットに乗せる。
彼女は腕を伸ばしベットの上部を探る。
お目当ての時計が指先に触れ、ずるずると持ってくる。
まだ目が光に慣れていないのだろう、目を細めながら今時アナログな時計盤を読む。

「……12時ぃ…」

正確には12時27分。
完璧に寝坊である。
だがそんなことも構わずに、また彼女は掛け物に包まる。

「がうっ」

先程よりも少し怒ったような、責め立てるような声を黒ヒョウは出す。
彼女は黒ヒョウに腕を回し、ぐいとベットに引き込んだ。
黒ヒョウは抵抗することなく引き込まれ、ふんふんと鼻息を荒くする。
まるで、俺は認めないぞ起きないといけないのに!と言いたいようだ。
彼女はそんな抗議は知らないと言わんばかりに抱きついてまくらにする。
なにせ、彼女にとってはとても珍しいことなのだから。
こんな風に、昼まで誰も起こしに来ない、寝ていてもいい世界は。
いつだって、夜遅くに帰ってきて、朝には報告書を書き、昼には書類の整理をする。
夕方からは会食、夜中には少々公にできない仕事のために出かける。
それが今では日付前にベットに入り、昼までのんびりと寝れる。
今までの敵は敵ではなく同盟という形で仲間になった。
小競り合いこそはあったが、彼女のボスが纏め上げてしまった。
ほんの数年前では思いもしなかったことだ。
今の組織も、この状況も。

(ああ……暖かい…)

鳥の声と、黒ヒョウの温かさに、彼女の瞼がゆっくりと重くなる。
腕の中の黒ヒョウは未だふんふんと抗議している。
その鼻息さえ、彼女をまどろみから引き上げることは出来ない。
ぼやけた視界がゆっくりと瞼で遮られる中、彼女は確かに感じた。

(……これ、が…幸せ、かな……)

そしてまた部屋は静寂に包まれるのだった。




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