ひとひら
ぷちん。ひらり。
今時、花占いなんて誰がやるんだ。
うん。私だ。私だよ。
馬鹿だなんてことわかってる。当たるわけがないもんね。
そこらに咲いていた適当に摘んだ花ひとつで相手の気持ちがわかってしまうなら努力もなにもいらない。
かわいらしい迷信を信じるのはこどもの頃だけで充分だと心底思う。
ぷちっ、ぷちっ。ひらり、はらり。
すき。きらい。すき。
それでも花びらを一枚一枚つまんでしまうあたり、追いつめられて最後の手段を望んでしまっている自分を嘲笑うしかなかった。
あぁ、花にやさしくないね。ごめんなさい。
ぷつん。ひらひら、ひらり。
きらい。すき。
ほろほろ。はらり。
綺麗な花びらが一枚だけ残ったそれを見つめる。
ねぇ、なんでこっち向いてくれないの?どうして?会うだけじゃ足りない。いっしょにいたい。好きって言ってほしい。これだから私はこどもなんだ。学校の制服じゃなくて、貴方と同じスーツを着たら、隣に並んでも大丈夫なのかな。
すっかり濡れてしまった頬を拭くこともせずただ最後の花びらを見つめていた。
ここでいきなり想う人が後ろからがばっ、て抱きしめてくれるなんてそんな少女マンガみたいな展開になんてならない。だってあのひと、まだお仕事中。
遠くに見えるのは見慣れたおそろいの制服を着てそれぞれの帰路につく知らないひとたち。わたしがいる世界はこっちなのに。
届かないのはどうしてだろう。
花占い、意外と当たるのかもしれない。必要のない発見だ。
結果なんてねじまげてやろうと意気込んで立ち上がった。
まずはこのひどい顔をどうにかしないと、会いに行けない。偶然を装いたいのに、きっと「どうした?」と問われてしまう。あの低いけれど優しい声で。
だめだ、平静を保てなくなる。
綺麗に咲いた花だったものを草むらにそっと置いて、なにかを掻き消すようにいつもの帰り道をただ必死に走った。
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