天邪鬼の想い人





――昔から、そうだった。



俺が世界で一番嫌いなのはあんたで、と同時に、俺が世界で一番羨ましく思うのもあんただった。何も変わりはしない。あの頃から、あいつは俺には無い何もかもを持ち得ていた。


初めて会った瞬間、まず先に目を惹いたのはその整った顔立ちだった。

無造作に束ねられた流れる漆黒の長髪に、消える事なき鋭い光を湛えた双眼。芯のある男だと、近藤さんは笑んだ。薄い唇から吐き出される、深みのある低音。流石の俺もこれには怯んだ。剣の腕も荒々しくはあるが確かなものがあって。良いライバルが出来たわね、と姉上は嬉しそうだった。

その長身も、そのすかした性格も、兎に角全てが気に入らない。あいつはいとも簡単に皆の信頼を集めていった。




「総悟、」



しんしんと雪が降り続く。今夜は久し振りに積もるかもしれない。沖田は舞い降りるそれにミツバの面影を重ねていた。彼女の肌は白雪のように綺麗で儚く、穢れのない白だった。


呼ばれた方を一度だけ振り返り見ると、沖田はまた外の景色に視線を戻した。どうやら土方の仕事は片付いたらしい。



「退屈そうだな。外出て、美味いもんでも食うか?」

「こんな寒い日にですかィ?行くならあんた一人で、勝手に行って下せェ」

「……なら、部屋でゴロゴロするか」

「俺ァ最初からそのつもりでしたぜ」



可愛くねェヤツだと土方が苦笑するから、お互い様でィと口角を吊り上げた。すると土方はすっと立ち上がり、沖田の見ていた景色へと歩み寄った。


向けられた、大きく広い背中をじっと見詰め黙り込む。

今までずっとこの背中だけを見て、いつか追い抜かしてやるとそう思っていた。結局、剣の腕では勝ったものの、彼は副長で自分は隊長。その距離が縮まることは無かったのだけれど。



「おい総悟。襖、閉めるぞ」

「あ…っ、何すんでィ!」

「何って……寒ィだろうが。馬鹿でも風邪は引くもんだぜ」

「見てたのに、……まァいいでさァ。にしても土方さんもやっと、自分が馬鹿だって認めたんですねィ」

「ちょ、お前それ違ェ!!」



ばしっ、手を掛けた襖を勢いよく閉めた彼が、これまた勢いよく此方を振り返った。


土方をおちょくれば、やはり良い反応を返してくれる。それが何だか面白おかしくて止められなかったら、遂には真選組内でも二人のやり取りが習慣付いてしまった。

全く、どうしてくれるんだ。

内心溜め息を吐いている沖田を余所に、その向かいに腰を下ろした土方は煙草に火を点けた。臭かったから、わざと大袈裟に苦い表情をして見せたが、土方の煙草の匂いにどこか安心してしまう自分がいて。



「つーか土方さん、襖を閉めた理由、それだけじゃないんでしょう?」

「…目敏いな。」



刹那、土方の長い腕が沖田に伸びてきて。ああやっぱりな。二人きりになるために、彼は外を遮断したのだ。二人だけの室内は妙に時の流れがゆったりとしているように感じた。

捕らえられた沖田は、そのまま力強く引き寄せられる。僅かにあった二人の距離は一瞬にして消えて無くなってしまった。温もりに包み込まれ、その心地よさにゆっくりと目を閉じる。



「俺、あんたが嫌いでさァ」

「んなのずっと前から知ってる。…でも、好きなんだろ?」

「……何でそう思うんで?」

「だってお前、天の邪鬼だから」



紡がれた言葉と同時に、土方の唇が迫り来た。しかし沖田は少しも拒絶しようとはしなかった。

極自然に重なり合ったそれ。ん、思わず吐息が漏れる。すっと身体の力を抜き、任せるままに優しいキスに酔いしれた。それはもう何度目かの甘い時間だった。

はぁっ、そして名残惜しそうに離れた唇。物寂しいけれど温かくて、思わず指先で触れてみれば、土方が幸せそうにゆるりと柔らかな笑みを浮かべていた。



「まァ別に、嫌いでいてくれたって構わねェよ。何と言われようと、俺は総悟が好きだから」

「…あんたは……狡ィ。」

「ん?何か言ったか」

「いえ、何でもありやせんぜ」



この表情も、ずっと背中を見詰めていたのでは気付かなかっただろう。追い掛けていた筈が何時の間にか隣に並び共に歩んで、沖田は土方の横顔を眺めていた。どうしてかは分からないけれど、それだけで今までとは明らかに違う何かが見えた気がしたのだ。

土方のことは大嫌いだったけれど、相反するように沖田の心は彼に惹かれていた。気付いてからは本当にもう、何もかもが一瞬だった。



――そう、俺はアイツが好きなのだ。






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『淡く儚く』のかなめ様に捧げます。
相互ありがとうございました!駄文ですが、愛だけは詰まってますよ←。これからも宜しく御願い致します!




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