憎たらしいほど愛らしい





――茹だるような暑さ。

雨上がりの屯所は、蒸し暑くて仕方無い。只でさえ男だらけの暑苦しい空間に追い討ちを掛ける天気を、内心憎みさえした。


流石の土方でも、書く手を止めて畳に寝転がってしまう。

その時ふと外に視線を移せば、総悟が物珍しそうに此方をじっと眺めていて。しかし今までそれに気付かなかった事よりも、彼の格好に土方は目を丸くした。



「土方さんがだらけてるなんて、珍しいですねィ」

「…暑ィんだよ。つーかお前は服着ろ、服!」

「暑ィんでさァ」



涼しい顔をした総悟は、爽やかな仕草でパタパタと手で顔を扇いでいた。上半身を起こした土方の口許からは思わず溜め息が漏れる。

総悟は流石にズボンは履いているものの、上半身は裸だ。


……誘ってんのか、コイツ。

好きな奴の裸を見て、堪えられる男は果たしているのだろうか、少なくとも俺には無理だった。



「おい、総悟。こっち来い」

「何で――ッて、危ねっ!」



半歩近付いた総悟の腕を、欲望のままに力強く引き寄せた。土方の上に崩れ落ちたその身体を、今度はきゅっと抱き締める。



「……セクハラ。」

「バーカ。んな格好してるお前が悪ィだろ」

「っち、死ねよ土方ァ。暑苦しいでさァ、離せよぉ」

「…るせぇ。俺はこのままがいいんだよ」



汗ばんだ総悟の身体はひんやりとしていて、ずっと気持ち良かった。

雪のように滑らかで真っ白な肌に反し程良く付いた筋肉が、とても綺麗だ。むさ苦しさを全く感じさせないのは、仄かに香るシャンプーのお陰だろう。



「ん、反抗しねェのか?」



離れられないよう、更に腰に腕をキツく絡ませれば、大人しく両膝を地に付けた総悟。そしてぴとりと、その柔らかな頬を土方の胸に当てた。



「あんたにはどうせ言っても無駄ですからねィ。端っから諦めてやす」

「俺のこと、よく分かってんじゃねぇか」

「黙れ、土方クソヤロー」



――ゆっくり、ゆっくりと、時間が空気が、流れ行く。


微かに吹き抜けた風が抱き合う二人を優しく撫でて行き。



「ねぇ、土方さん。これで本当に暑さ紛らせてんで?」

「あァ。お前の身体冷たくて気持ちいーんだよ」

「…あーあ、あんたは嘘吐きだ」



くすくす、総悟は小さく笑い声を漏らすと顔を綻ばせた。

誰が嘘吐きだと怪訝そうに眉を顰めれば、総悟は俺の耳元で囁くのだ。まるで思い付いた悪戯を、仲間にそっと耳打ちするかのように。



「土方さん、顔真っ赤。あと…胸も腕も触れてるとこ全部、あったけーでさァ」



総悟が笑う度、ふっと掛かる吐息が擽ったくて堪らない。それからどちらからともなく唇を寄せ合うと、触れるだけの甘い口付けを交わした。




(俺の胸に、愛おしさだけが募って行く――。)







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