其の手を離さない





例えるならばそう、警告音。


突然の呼び出しに高鳴る胸の鼓動。

ドクンドクン、痛いくらいに響く其れは……生易しいモノなんかじゃなくて。



「──別れねーか、俺達」

「っ…う、るせェ!」



ほら、やっぱりな。

薄々気付いてはいたんだ、

けど、それでも…──。


ぎゅっと彼の服の裾を掴み、握り締め。

戸惑いながらも離れまいと、強い瞳で必死に訴える。

しかし眼前に佇む土方を見据えれば見据える程、土方は俺を避けるように視線を反らした。



「そっか。…土方さんは、俺が嫌いになったんですねィ」

「………おい、」

「そりゃそうだ。だって俺ァ野郎で、あんたに釣り合うような別嬪さんでもねェ」



仕方の無い、恋だったんでさァ。

俺だけがずっとあんたを好いていただけだったんだ……。


思えば、胸が苦しくなって。

俺は口元を緩ませ、乾いた笑い声を漏らした。

泣いてなんてやるものか。


しかしすっと土方から右手を離せば、──どうしてか。

土方が視界から消え、代わりに力強い腕が俺を抱き寄せた。

前が何も、見えない。



「…違ェよ、総悟。俺がお前を好きだから、」


だからこそ、離れんだ。

「俺といれば、…俺の存在自体がまたお前を傷付けちまう」



街道を歩けば後ろ指を指され。

鬼の副長の想い人だと狙われ。

蔑み、嘲笑われる日々――。


俺は土方の胸の中で声を押し殺して泣いた。

全部気付いていたと、彼は言う。

辛い思いをさせて悪かったと、俺の髪を撫でるから。



「あんた、馬鹿でさァ!」

「…っな!??」

「それならその度に、土方さんが助けてくれりゃいい」

「そ、総悟……」

「あんたが側に居ない此れからの方がずっと、辛いでさァ…」



一言一言に精一杯の想いを込めて言葉を紡げば、土方が俺を抱く力を強めて。

苦しいくらい締め付ける其の腕を、背中を、俺は柔らかく抱き返した。

離れないで下せェ、涙で荒立つ声で叫ぶ。

んな事言われたら離せねーだろ、土方は口角を上げ溜め息混じりに呟くのだ。


甘く、切なく、支配する──二人だけの時間。





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