欲しいものほど中々手に入らない@





夏本番の厳しい日差しの中、背中を猫のように丸めて歩く男が一人。

いかにも疲れきった目をして、その足は大江戸スーパーへと向かっていた。



「ったくよォこの暑い日に何が好きでギューピーさんなんだよ」

あんなもん、2日もすれば頭禿げてポイがオチだろーが。

「ギューピーさんに謝れってんだ、山田花吾郎ー!」



銀時は手をパタパタさせて風を送るが、この暑さの前では無意味だ。

そう、この全ての事の発端は、約10分前にさかのぼる─―





「銀ちゃん、銀ちゃん。私、あれ欲しいアル!」

「あァ?何、どれよ」

「あの、マヨネーズに付いて来るギューピー人形ネ」

「ギューピーだァ?んなもん知るか。あんなの新八に鼻くそ付けたのと同じよーなもんだろ」

「新八は糞以下ネ。とにかく欲しいアル」



神楽の断固として譲らない往生際の悪さに、銀時は頭を抱えた。



「こちとら、てめーと定春の食費で毎日デンジャラスなの。分かる?」

「でも銀ちゃんこの前、次の給料では好きな物買ってくれる言ったネ」


あーそんなことも言ったような、言わなかったような……。


銀時は頭をボリボリと掻きながら、渋々と立ち上がった。

何でコイツくだらねェことはよく覚えてんだよ、と文句をたれるのも忘れずに。





そうして、今に至るわけだ。

もうスーパーの入り口は目の前である。



「って!可笑しいだろ。何で俺がお遣いなんてしなきゃ…って、ん?」



視界の中を、見覚えのある顔が通り過ぎる。


黒服、黒髪、そして瞳孔開きっぱなしの憎たらしいあの目。

そう、あれは生粋のマヨラー、土方十四郎に見間違えようが無い。


あいつが自分でスーパーに来る理由なんて、一つしかねェだろ……。

ガキ大将がヤンチャをする前触れのように、銀時はニヤリと口の端を上げて笑った。



「ひーじかった君!」

「…何だ、万事屋じゃねェか。一体こりゃァ何の真似だ?」



満面の笑み、そしてマヨネーズを見つめ続けるその視線に、土方は多少身構える。



「いや…そのちょっとさ。お願いって言うかァお尋ね物って言うかァ」

「…何をだよ」

「いやいや!だからそんな身構えないでって。大したことじゃないんだし」

「だァかァらァァ!何を尋ねてんだって聞いてんだろうがァァァ!!」



丁寧にいくつもりが、まさかの逆効果だった。

土方は痺れを切らし怒鳴り散らす。


くそっ…人が折角いい人演じてんのによォ、まじ殴りてェわ。

そう思い脳内で土方撲殺の回想を続けようと、作り笑いは崩さない。

これぞプロフェッショナル!
……え、違う?



「つまりあれだよ、そのー…ギューピーさんが欲しいなァ…なんて、ねっ」



銀時は手からぶら下げているスーパーのビニル袋に視線を移しながら、お願いだ、というように手を重ね合わせる。

本当はこんな事したくもない。

だが、これはギューピーさんをタダで手に入れるチャンスなのだ。



「あーこれか。つか、こんなん入ってたんだな」

「でしょ!気づかなかったよねェ、だって欲しいのマヨネーズだけだもんねェ」

「まァ…確かにいらねェが」



そこまで言うと、土方は少し考える素振りをした。

…おい、何を迷う必要があんだ…?
早くギューピーさんをこっちに寄越しやがれ…!




「──駄目だ。」

「おーありがとねー、多串君!恩にき、」

「駄目だっつってんだろ」
「………はィイィ?」




何コレ続いたりするわけ?




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