君を連れて何処までも





差し出された右手ごと抱き締めた。何があろうと離さないと誰にでもない、己自身に誓った。

君の笑顔はすべてを溶かし行く、微熱を含んでいて。ゆっくりとゆったりとした速度で、僕の心をも溶かし曝け出す――。




「思えば最初は、一目惚れだったんですよ。姫の笑顔に惹かれたんだ」

「え……?い、いきなり、どうしたの」

「あ、いえ。ふと思い浮かんだだけで、特に意味はないんだけど……嫌だった?」

「そっ、そんな訳ないでしょ!急にそんなこと言われたから、びっくりしただけ」



慌てて首を突っ込んで来た姫に呆気にとられてから、僕は思わず噴き出した。え、なに、と目を見開く君とは裏腹に僕は目を細めて。いえ、嬉しいんですよ、と呟きぽんぽんと頭を撫でてやった。



「勿論、今は外面も内面も、全てひっくるめて好きだよ」

「そ、そういう照れ臭い台詞……よくサラッと言えるね」

「ははっ、真実ですから」



耳まで真っ赤にして俯く姫を可愛いと思う。街は賑わい、煌びやかに輝いている。

暫くそうしてふたりで歩いていると、姫が唐突に顔を上げて。



「アレン、――お誕生日、おめでとう」

「…え……?」



ほら、アレンも驚いた顔してるよ、なんて。君は悪戯な笑みを浮かべて僕の瞳を覗いた。確かに揺らいでいることはバレてしまうだろう。

僕がマナに拾われた日、それが僕における誕生日と言えるのかもしれない――、そう姫に話したのは何時のことだっただろうか。もう随分と前の、それもたわい無い会話の途中だった気がする。些細なことなのに。覚えていて、くれたのか。その事実にどうしようもなく心が震えた。



「あ、そうそうプレゼントは何がいいかなあ」

「気持ちだけで充分だよ」

「もうっ、アレンは優しすぎるんだから……。遠慮しないで、私が受け取って欲しいの!」



大きく頬を膨らませて、姫は僕の腕を強く引いた。それから満面の笑みで、一年に一度なんだもの、と唇を動かして。


こんなにも穏やかで優しい気持ちになれるのは君のお陰だ、なんて姫はちっとも分かっていないんだろうけれど。君が傍にいるから、だから、僕は――。



「ありがとう、嬉しいよ」



君がくれた幸福こそが、僕の生きてきた証だ。そしてこれからを立ち止まらず歩き続ける支えとなって。幸せに惑い、絆され、満たされる。

共に歩んで行けることを先の見えぬ未来に願っている。



「何か欲しいもの、ない?」

「欲しいもの、ですか」



けれどやはり僕の行く道は険しくて。きっと姫の隣を歩むことは難しいかもしれない。

ならば、僕が踏みならしてあげよう、君が笑って通れるくらいに。たとえどんなに凸凹な道だったとしても、辛く苦しい道程だったとしても。



「……欲しいものなら、もうここに、」



そして永遠に君が僕に付いて来てくれたら、なんて横暴な考えだろうか。ああ、それでもいい。



「姫が傍に居てくれるだけで、僕は幸せなんです」



だって、――僕が欲しいのは、生涯君だけなのだから。





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