積み上げるアイ其れは任務からの帰り道。真っ黒、暗闇の中、私のすぐ隣でユウは唐突に呟いた。 丁度心臓の上辺り、胸に軽く手を当て無表情のまま消えてしまいそうな程小さな声で。 「──苦しい、…」 勿論、私は其の言葉を聞き逃さなかった。え?と問い返せば、ユウは何でも無いとそっぽを向く。 弱音なんて吐かない彼が、どうしたというのだ。考えただけで思考回路は不安に染まり、私は必要以上に慌ててしまって。迷わず、勢い良く彼の胸元に飛び付いた。 「なに!?どうしたの、ユウ!どこが痛いの!?さっきの任務で怪我を……っ」 「…おい、姫。落ち着け」 「っ!落ち着いてなんていられないに決まってるでしょ!」 潤んだ瞳で顔を上げ、私はユウの胸に手を当てた。胸が痛いの?、と。触れた部分から熱が溢れ出して徐々に私をも蝕んでいくのが分かる。 すると、彼は少しだけ困ったような表情で。いつものように照れ隠しの舌打ちをした。 「…チッ……俺は怪我なんかしてねぇよ」 「じゃあどうして、」 「……お前が、」 「わたし?」 不安気に尋ねれば、ユウは自分の胸に置かれた掌を取って。労るように優しく柔らかい、口付けをそこに落とした。 訳が分からなかった。されるがままに唖然と立ち尽くしていた私は、見る見るうちに顔を真っ赤に染め上げる。今の、キス、だよね……? ユウの顔と自身の掌を見合わせていれば、また決まり悪そうな表情で、そしてまた、小さな声で言葉が紡がれた。 「お前が隣にいると何だか胸が苦しく感じんだよ」 「……ユウ、それって」 「あぁ。確実にお前に惚れてる証拠なんだろうぜ」 「なっ、馬鹿…!」 慌てて損したと顔を真っ赤にする私を見て、ユウも同じように顔を赤く染め上げる。珍しくも無表情でない彼に、何だか擽ったい気持ち。 腰にある六幻に手を掛け、ユウは私より二歩先をいく。私は後を追い掛けて、其の背中を掴んだ。 「私もユウのこと、ちゃんと好きだからね!」 「……あぁ、」 ユウは振り向き様に私の手を握った。月明かりに照らされた夜道を、彼に連れられ私は歩く。ひゅるり、冷たい夜風ももう気にならなかった。 二人の繋がった掌は、とても暖かくて。流れいく時間は、とても幸せで。此の手を離すことさえしなければ、私達は永遠に一緒なのだとさえ思う。 だから――ずっと、一緒にいようね、だなんて確証の無い台詞も、どうか今だけは、許して欲しい。 ←back |