A hypocrit
--魔女の戯言--
「それでルナ、突然で悪いんだが……今、暇か?」
「うん。特に何もないよ?」
「ならランスに教団を案内してやってくれねぇかな。こっち、今人手が足りなくてさ」
お前も疲れてるのに悪い、と本当に申し訳無さそうに頼む彼を断る人など果たしているのだろうか。
ルナも例外ではない。
食堂に戻るつもりではあったが、暇なことには変わりないのだ。
「リーバーさんがそう言うなら、私は別に構わないよ」
リーバーは助かると言わんばかりに表情を輝かせた。
よほど忙しいんだろうな。
ルナは再度こくりと頷き、リーバーに背を向けた。
リナリーは食堂で私の帰りを待っているのだろうか。
そう思いながらも、しっかりと案内している自分がいる。
とは言え、驚く程に広い教団内を全て案内するわけにもいかず。
「……ルナさん?どうかしましたぁ?」
「ん?いや…、何でもないよ」
軽く返事をすると、二人の足は自然と細い廊下に入っていった。
――次はどこに行こう?
思案していると、突然、アクアが視界に入って来た。
物静かな廊下の端の、更に細い廊下に当然人通りはなく、どこか気味の悪い薄暗さだ。
此方を舐め回すように眺める彼女に、ぞくりと背筋が凍る感覚がして、思わず後ずさる。
コイツは危険だ、咄嗟に判断した脳内で警鐘が鳴り響く。
「ねえ、……ルナさん?」
嫌な、嫌な予感しかしなかった。
先程までの甘ったるい声とは打って変わった、威圧的で低い声音。
「あんた、ウザイ」
端的で余りに分かりやすい、それは自分を快く思っていない者の言葉。
ルナが声を発そうとすれば、喉元を片腕で掴まれた。
「その顔見ているだけで苛つくのよね。あんたの存在が私を不快にさせるの。……この意味、分かる?」
「や、め……っ」
「だーめ。ほら、要らない人間は……消えなくちゃ、ね…?」
暗がりの中、アクアの瞳がギラリと不気味な光を放った。
それはおぞましい、魔女を彷彿とさせるかのような。
確かに見たのだ、ルナは彼女の真の姿を――。
「きゃあぁああぁあああっ!!!」
(研ぎ澄まされた感覚、敏感に反応するは恐怖。闇の迷宮に迷い込み、漸く見上げた光は魔女の微笑だった――)