A hypocrit

--偽りの笑顔--



靴底を響かせながら、ルナは司令室の前まで来ていた。

中では相変わらず科学班の皆が忙しなく動き続けている。

呼び掛けたところで答えが返ってくることもないだろう。

これも何時ものことだ。

足元には大量の資料が落ちていたが、それを何の迷いもなく踏み付け、奥へと入って行った。



「汚いなあ、もう……」


呆れたように吐き捨てると、ルナはコムイを捜し始めた。

しかし彼の姿はどこにも見付からない。

恐らくまたどこかで逃亡劇でも繰り広げているのか。


はあ、ルナは深く溜め息を吐くと踵を返した。

また後で来るしかない、か。


「そろそろ、アレン達の口論も終わっている頃かな」


そして食堂に戻ろうと、司令室から一歩踏み出た、その時だった。



「――ルナ!」


誰かに遠くから呼び止められた気がして、ルナは後ろを振り返るが其処には誰も居ない。


「?」

「こっちだ、こっち」


声のする方に再び振り返ると、そこにはリーバーと、どこか見覚えのある少女が居た。


「リーバ班長、……と、そちらの方は?」


そう言えば、と数分前の光景が頭を過ぎった。

先程すれ違った子だっただろうか、そう思い、リーバに問い掛けてみる。

リーバーは目の下に盛大な隈を作り、疲れ切った表情で無理に笑った。


「新しいエクソシストだ。名前は、」

「アクア=ランスって言います。新米ですけどぉ、宜しくお願いしますね」


リーバーの言葉を遮り自己紹介をした彼女、アクアに、ルナは作り笑いを浮かべて言った。


「初めまして、アクア。私はルナ=セレーヌ。よろしくね」


アクアもそれに応えて、可愛らしく微笑んだが、その顔が引きつっていたことには誰一人として気付きはしなかった。




(悲劇は始まりを告げる。最後に笑ってみせるのは、偽りか、真か。すべては己自身――)



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