A hypocrit
--すれ違う影--
門前に佇む、ひとりの少女。
口元を緩め微かに笑うその様は、まるで魔女のようだった。
「此処が…黒の教団…。ふふっ」
怪しく綻びると、ますます顔を歪めて言葉を吐き出す。
――次に捕まる獲物は、誰でしょお?
時刻は丁度、12時を回ったところだ。
食堂内は多くの人で賑わいを見せている。
溢れ返る人混みの中、その一席に、昼食を食べに居合わせた五人の姿もあった。
「アレン……お前食べ過ぎ!どっからどう見ても、食べた量と体積が釣り合ってねーさ」
「あれ?ラビはもう食べないんですか?なら僕が食べてあげますよ」
「…っ、ンな!ひ、人の話を聞くさぁー!!」
「チッ……うるせえ。飯ぐらい黙って食えねぇのかッ!」
しかし先程から口論が絶えない三人は見るに見兼ねたものだ。
ルナはふうっと息を吐きゆっくりと席を立ち上がった。
そんな彼女をリナリーがきょとんとした顔で見上げている。
「ルナ、どうしたの?」
ルナは軽く笑みを零した。
「ん?何でもないよ。ちょっと用事を思い出してさ」
閑散とした廊下に乾いた靴の音だけが響いている。
お昼時ということもあり、皆は食堂に集まっているようだった。
ルナは欠伸をすると、眠たい目を擦り瞬かせる。
ふと、気が付くと、足音はいつの間にかふたつになっていた。
――誰だろう?
不思議に思い足を止め、後ろを振り返ると、一人の少女と擦れ違った。
自然と彼女の後ろ姿を目で追ってみる。
見覚えのないその少女はとても急いでいたようで、あっと言う間に消えてしまった。
ルナはそれを気に留めず、再び歩き始めた。
一歩一歩、確実に。
これから行く先に、どんな災難が待ち受けているかも知らぬまま。
(歩む先にあるものを、私はまだ知らない。否、知る由もなかった――)