如果没有水的 花枯死







ガチャンと重苦しく嫌な音を立てて、鉄扉が閉じられた
何も分からず連れてこられた地下牢は、小さな灯りで足元が僅かに見えるほど暗かった
そんな世界にただ独り残された乱菊は、遠くに見える小さな窓を見詰めた
陽は随分前に沈んだため、そこから見える色は室内同様、黒のみだった

(どうして…)

昼間、乱菊は隊務に勤しみながらも、雛森とお茶をしたり、隊長室で昼寝をしたりと自由に過ごしていた
普段ならばそこで日番谷からの怒声が聞こえてくるのだが、今日に限ってそれがなかった
自然な形でまどろみから抜け出した乱菊の上に乗っていたのは、隊長のみが着ることのできる白羽織だった
そして机の上には、自分のものではない水仙の花が彫られた隊章が置かれていた

「松本副隊長、総隊長の命令です。ついて来て下さい」

それに気がついた刹那、総隊長の使いの者が訪ねてきた
“総隊長の命令”と言われてしまえば逆らう事は出来なかった
理由を聞くことも出来ず大人しくついて行った結果が地下牢に入れられると言うものだった
 を見つめながら、ここに至るまでの経緯を思い出していた乱菊の耳に足音が聞こえた
音のする方を見つめると、灯りが徐々に近づき真っ暗な部屋を照らした

「…隊長…?隊長!!」

それによって乱菊の目に映ったのは、意識を失った日番谷が身の丈よりも大きい黒装束を纏った二人の男によって運ばれてくるところだった
二人の男は乱菊のいる独房の隣に、乱雑に日番谷を放り込み足と手に鉄枷を付けた後、鉄扉を閉めて重たい鍵を閉めた
嫌な音が再び静かな地下に響き渡った
そして、何も言わずに男たちは立ち去って行き暗闇が二人を包んだ

「隊長!!隊長!!」

乱菊は柵を隔てた先に居る日番谷に向かって精一杯声を張り上げた
何度も何度も声を張り上げ、枯れてきた頃に日番谷の傷ついた身体が動き薄く眼が開いた
重たい鎖の音が暗い独房に響き渡った
周りが暗くはっきりとは見えていないのだが、生きていることを確認できた乱菊は安心して小さく息を吐いた

「ま……もと?」

静かでなければ聞き逃してしまいそうな声を耳にして、乱菊は日番谷が居るであろう方向を見た
僅かに暗闇が和らいでいる部分から、薄く途切れそうな声が再び聞こえてきた

「まき、こんで…わる…か…」
「隊長?隊長!!」

その後、乱菊は何度も声をかけたが日番谷が意識を取り戻すことはなかった
朝日が部屋を照らしお互いの姿がはっきりとした時、乱菊は日番谷が羽織りを羽織っていないこと
そして、着ている服が赤黒く染まっていることに気がついた
それらから今、独房で横たわっているのは十番隊の日番谷隊長ではなく、日番谷冬獅郎であると分かった
乱菊が愛した一人の男である日番谷冬獅郎
彼を求めるように柵にしがみつきながらも必死に手を伸ばすが、僅かに届くことはなかった
それは彼が生きていたならばきっと届くであろう距離だった

「乱菊さん…」

昨日と同様の重く嫌な音がして鉄扉が開いた
扉を開けた本人である雛森は涙を流しながら、乱菊に他の隊長よりも小さい羽織と水仙が模られた隊章
そして、菊花を渡した
受け取った乱菊はそれを見つめて、ゆっくりと瞳を閉じた
枯れてしまった瞳から涙が流れることはなかった



《如果没有水的 花枯死》




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注釈

隊花:水仙
花言葉:神秘とエゴイスト

菊花
花言葉:高貴、高尚、私を信じて下さい、破れた恋
色別…紅色:愛情/黄:高潔、わずかな愛/白:誠実、真実/濃色、私を信頼して下さい/スプレーギク:私はあなたを愛する

題名和訳『水のない花は枯れる』






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『桜雨』の握亜さんから、キリリク小説を頂きました。ありがとうございます!もう握亜さんのシリアスがドツボ過ぎてぅあぁああ///ダークな感じが素敵過ぎて。一気に惹き込まれました。文才って怖いですね…!これからも陰ながら応援しています、本当にありがとうございました!







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