チクタク。針が時を刻み、無音の時だけが流れ行く。
私は依然としてあのまま、うずくまったまま、だった。
それからほんの暫くしてのことだ。
床から微かな振動が伝わり、階下から足音が聞こえてきた。
何故だろう、自分以外誰も居ない筈なのに。
それは確かに此方に近付いて来ていて一つ向こうで扉の開く音がした。
まさか――、その予感は見事に的中していたのだ。
「有利?俺、銀さんだけど、」
そうだった、彼には合い鍵を渡していたではないか。
私は涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すため、布団に潜り込んだ。
だってこんな顔を見られたら、銀時はますます離れていってしまう。
「どうしたんだよ、そこにいるんだろ?」
布団に手を掛け剥ぎ取ろうとする彼に対抗し必死で布団を握り締めた。
私のその全力の拒絶に堪えたのだろうか。
寂しそうな声音でもう一度、どうしたんだよ、と呟いて布団を引く力は消えてしまった。
「なァ、有利……俺何かした?何で顔、見せてくれねーの」
力の無くなった声からはとうとう生気まで失われたように感じた。
何故、そんなに一生懸命になってくれるの。
銀時は心配してくれている、その事に何だか罪悪感が込み上げて来て。
私の頬を涙が伝い、嗚咽が漏れた。
彼はまだ私を好きでいてくれているのだろうか。
女性に見せた笑顔を思うと、不安と云う名の重圧に押し潰されてしまいそうだった。
「おい、何で泣いて…!」
驚いた声がしたかと思えば、今度こそ本気で彼は布団を剥ぎ取った。
お互いに目を丸くして、しかしそれから彼は優しく私を抱き締めてくれて。
すすり泣く私の額を自身の胸板に押し付けると、そのまま動かなくなった。
止まった時間の中、温もりだけが私を支配する。
「見られたくねーんなら、見ねーから。……頼む、俺の居ない所で一人で泣くなよ」
「銀時…。あ、服濡れちゃうよ…」
「んなの気にしてねーよ」
ふにゃり、と柔らかく微笑んだ彼に私がときめいてしまったのは言うまでも無い。
ただどこか切ないその笑みに、同時に胸が締め付けられもした。
――やっぱり銀時は銀時だ。
こんな情けない私にも、優しくしてくれ、まだ甘美な言葉を投げ掛けてさえくれる。
何時まで私はその優しさに甘えているつもりだろうか。
もし銀時に本当に好きな人が出来たのだとしたら、…それは応援してあげる他に無いのだ。
曖昧で優しいひと
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