暗くて、深くて。
真っ暗で、何も見えなくて。
奈落の底へ突き落とされた、今の気持ちを例えるならばきっとそんな感じ。
良くないものを見てしまった、あれは何かの冗談だ。
そうだ早く忘れてしまおう。
早く消えてしまえ。
早く、早く――。
しかし唱えれば唱えるほど、あの残像が瞳に焼き付いて離れない。
あの笑顔を思い浮かべる度に胸が苦しくなって、どうしようもなく涙が溢れ出した。
「…銀、とき……」
私が泣いている時、いつもすぐに駆け付けて涙を拭ってくれる、彼がいない。
だが、私ではない誰か別の女性と愉しげに笑い合っている、彼はいた。
銀時に限ってそんな事はないと思っていたい。
しかし銀時が女性と会っていたのは紛れもない真実で。
行き場の無いこの気持ちを、一体どうすればいい。
考えたところで答えなど出ないのだけれど。
私は小刻みに震える右手を左手で支えながら、慣れ親しんだ番号を恐る恐る打った――。
「はいはい、もしもし?銀さんですけどォ」
2コールもしない内に、彼は電話に出た。
いつもと全く同じ気怠げな声。
しかし私と気付くとどこか嬉しそうに弾んだ声で名前を呼んでくれて。
「あっれ、有利ー?何、どうしたんだよ?お前から電話とか珍しいじゃん」
「そう?少し銀時に聞きたいこと、あってさ」
「ふーん」
「それでね、……ねえ、銀時聞いてる?」
「あ、あァ。…っつーかさ、お前……何かあった?」
ほらどうして、いつもそうだ。
銀時は目敏い、だからとても狡い。
私が隠していること全て真っ先に見付けてしまう。
私が沈黙すれば彼も沈黙した。
そして本人に直接聞けばいいと電話したのは私だったが、何と切り出せばいいのか分からなくなってしまった。
重々しい雰囲気に耐えられなくなった私はごめん、と電話越しに言い放つとプツリ電源を落として。
そのまま携帯電話を放り投げ、小さく小さくうずくまる。
何て身勝手な奴だと、銀時は嘲笑うだろうか。
「こんなんじゃ駄目って、分かっているのに…」
冷たく寂しい部屋、伸びる影はたったひとつ。
私は頭の整理がつかないまま、動くこともせずただひたすらに固まっていた。
此を束縛と呼ぶのだろうか。
此を嫉妬と呼ぶのだろうか。
痛む胸を押さえ付けながら、必死で自問自答を繰り返す。
初めての出来事に、頭は既にパンク寸前だった。
信じてた、裏切った
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