何時間も、終わりの見えない暗闇に包まれた道を走り続けているのだと、そう思っていた。


しかし光はちゃんと其処にあって、其処に居て。

私を呼んでいるのだ、彼が。

私は期待を胸に迷わず光に触れた。




――意識は、漸く覚醒する。




私が瞳を開ければ、其処には見慣れた天井が広がっていて、恋い焦がれていた彼が目の前にいた。

私を、心配そうに覗き込んでくれていた。



「っ、馬鹿ヤロー……気付くの遅ぇんでさァ…!」

「…ただいま、――総悟。」



お帰りなせェ、と言葉を紡ぐ総悟は、何度も何度も私の名前を呼んだ。

確かめるように、言い聞かせるように。

それが嬉しくて、私も彼の名前を何度も呼び返す。

お互いに必死過ぎて、端から見たら少し笑えるかもしれない。




「…ねえ聞いて、総悟。私、未来を見てきたの」



あれはバッドエンド中のバッドエンドの未来だった。


突然の告白に、総悟は一瞬ポカンと口を開けたまま固まってしまう。

がすぐに表情を崩し、何でィそりゃあと微笑んだ。



「…嘘じゃ、ないからね?」

「分かってまさァ、あんた本当に抜け殻みてーだった。魂がふらふらっとどっか行っちまってたんだねィ」



総悟の赤く腫れ上がった目元が痛々しい。

私は随分さ迷っていたらしかった。

抜け殻と称された私の姿を思い出したのだろうか、総悟は苦々しく口許を歪めた。

瞬間、ずきんと胸が痛んで。


しかし今は生きている、触れられるのだ。

私は白い腕を総悟へと伸ばした。

体温はもう、戻っていた。



「未来でも、私が真っ先に見つけたのは総悟だったの。救い出してくれたのも、」

「そっか。未来の俺、どんな顔してやした?」

「独りで馬鹿みたいに泣きじゃくってた。悔しそうに唇噛んで、…血が滲んでたのに」



止めたくて仕方なかった、と私は苦笑した。

総悟はそんな私の腕を取り、掌を自らの掌で包み込む。

そしてそれを自らの頬へと寄せると、あてがった。



「それ、未来じゃなくて、さっきまでの俺だと思うぜ」



涙は乾いて、頬を伝った痕だけが残っている。

恋人を泣かせていた事に変わりはないが、少々の罪悪感と多々の嬉しさだ。


私は総悟にごめんね、と謝りながらもありがとうと心底想っていた。

彼もそれに気付いたのか、幾分柔らかな笑みを零す。



「私もね、少し怖かった」

「……大丈夫、もう心配ありやせん。俺が側にいやすから」

「ふふっ、そうだね」



心配ない、と彼は私を抱き寄せる。

まだ無理に身体は動かせないからゆったりとした手付きで優しく。

本当に良かった、と吐息を零した彼の口元を生暖かい涙が伝った。

だから泣かないで、と私は彼に笑い返す。


それら全てが、あの時と重なった。

しかし違うのは、今二人の距離がゼロだということ。


私は総悟を求めた、
彼も私を求めた。

そしてお互いに口付けを交わす、儚くも甘い、それはとろけるようなキスだった――。





あなたの哀しみにほんの少しの幸せを、



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