ザアザア…――
降り止むことのない雨音が五月蝿くて、私は耳を塞いだ。


悴んだ掌は冷たくて氷のようで、お世辞にも綺麗だとは言えない程に荒れた肌をしていた。

女子のくせに、まるで女子とは思えない付き合いばかりしていたせいだろう。



「わたし、」



開けた視界はどこもかしこも石ばかり。

目に付く色は灰色くらいしかなくて、私は目を塞いだ。


冷えた指先は目蓋の上辺に僅かに存在していた熱さえも、奪い去ってしまった。

瞬間、湿った指先に、釈然としない思いで眉を顰めた。

どうして私は泣いていたのだろう。



「……なぜ?」



何故どうして、何故、私は独りきりなのだ。

聞き慣れた音がない、お気に入りの色がない、大好きな彼等がいない。

此処には私の望む物が何も無い。


小首を傾げて考え込むと、何だか身体が怠くって、私は小さくうずくまった。

大丈夫、すぐに迎えに来てくれるのだから。



「誰も、いないの?」




一瞬だけ塞いだ耳も目も、塞いだ所で何の意味も無かったから、私はまた元通りに辺りを見回す。


面白くない景色の中でふと、見覚えのある背格好が目に留まった。

それは灰色の世界の中で、悪目立ちする亜麻色。

唯一秩序を乱す色だった。



「総悟…っ!そ、………?」



大切な仲間達の中でも私がただ唯一愛していた恋人、その彼が居た事に歓喜の声を揚げるが。

しかし私はすぐに目を見開き、黙り込んだ。


――ねえどうして、貴方までも泣いているの?


強がりで意地っ張りで決して弱みを見せない総悟が、泣いていた。

慈しむように愛でるように、眼前に佇む灰色の石を撫でながら。

彼の悲愴に満ちた瞳が捉えているのは、おそらく、誰かの墓石。



「…瑠衣……愛してまさァ。なァ、愛してるんでさァ」

「……そーご…?」

「なァ、何処にいるんですかィ?こんなにもあんたは愛されてるのに、幸せになれるのに、一体何処に行っちまったんで」

「私は、此処に――」

「俺を一人に、独りぼっちに、しないで下せェ…!」



総悟の瞳からポロリポロリと、透明な雫が幾度となく零れ落ち、灰色の地面に小さな小さな水溜まりを作っていった。


どれだけ彼に手を伸ばした所で、触れる事は叶わなかった。

心配ないと抱き締めて欲しいのに、泣かないでと笑い返してあげたいのに。



灰色夜と彩涙雨



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