街道はイルミネーションに彩られていて、どこもかしこもカップルで賑わいを見せていた。 そんな中、私は例外なくいつも通りの仕事を行っている。 本日の見回り当番は私と退だった。 「副長の鬼畜ー!」 「まぁまぁ。どうせ一緒に過ごす相手居ないんだし…寂しさ紛れてラッキーじゃない?」 「もうっ、私を退と一緒にしないでよ」 私達より幾分若い可愛らしいカップルや、美男美女のお似合いカップルを見つけては、羨ましげにぼやき合って。 互いの身を嘆き合う、私達の掛け合いは屯所内でも有名な中々の名コンビだった。 関係は良好である。 「え?姫は一緒に過ごす相手、いたんだ?」 「……お母さんとか」 「………、だよね。」 はあ、私が深く溜め息を吐けば、隣から退が同情じみた目で笑い掛けて来て。 あんたも同じでしょうが。 私は実に笑えない言葉を返してあげた。 しかし本当は、今晩を退と過ごせて良かったと心からそう思っている。 私は退が好きなのだ。 これが世間的に不幸な状況なのだとしても、私にとっては幸福以上の何物でもない。 そんな事、口が裂けても言える訳がないのだけれど。 「あ、見てよ。クリスマスツリーがライトアップされてる」 「本当だ…凄く綺麗……」 「そう、だね」 退が指差した方を眺めれば、私はゴクリと息を呑んだ。 綺麗、それは考えるよりも先に出た言葉だった。 ツリーを彩る、数え切れないほど幾つもの光が、キラキラと眩く輝いている。 再び退に視線を戻した時、イルミネーションに照らされた退の顔が、ほんのり赤くなっていたのは気のせいだろうか。 私の反応に、何故か彼の声が少し上擦っていた。 「ねえ姫、一つだけ、真剣な話……聞いて欲しいんだ」 退は火照り顔のまま、真剣な瞳で此方を見詰めた。 刹那、クリスマスソングが辺りに流れ出し甘いムードが私達を包み込んだから。 私の心臓は突然、ドキドキと激しく鼓動を刻み始めて。 「本当はね。今日の巡回当番、俺が副長に頼み込んだんだ」 ――どうしても今日、姫と一緒にいる口実を作りたくて。 「姫と初めて会った日から今日まで、ずっと想ってた。本当はもっと早く伝えたかったんだけど…」 そこまで言って、退は私の頬に手を伸ばした。 笑った顔も、怒った顔も、全部好きなんだ。 夢のような甘い台詞を投げかけて、夢のように綺麗な笑みを私に向ける、眼前の男。 退はやっぱり馬鹿だった、そして今まで同じ様に気付かなかった私も、やっぱり馬鹿だ。 必死で笑っているけれど、今にも泣き崩れそうな頼りないその顔に、私も手を伸ばして。 「ねえ、好きなんでしょ?」 「…うん、」 「私もね、退が好きなんだ」 嗚呼、言い終えた途端に何かが切れた気がして、私の瞳から涙が溢れ出てしまった。 しかし悲しいのではなくて、どうしようもなく嬉しくて幸せで。 ダラリと腕を下ろし泣きじゃくる私を、退は力強く抱き締めてくれた。 きっと彼も泣き顔を見られたくなかったのだろう。 「俺達、似た者同士だね」 「バカ。そんなのずっと前から知ってたよ…」 「ん、……好きだよ、姫」 聖夜が起こした奇跡、否、聖夜が巡り合わせた運命。 願いが叶った幸福に浸りながら、私は瞳を閉じた。 最後の一滴が頬を伝い落ちて。 私は彼の中で彼の体温を感じ、輝く光達に静かに祝福されていた――。 ねえ知ってる?好きなのよ←back |