「ふんふふ〜ん」



鼻歌を歌いながら、私は気分良くケーキ作りに励んでいた。


何と言っても、今日はクリスマスなのだ。

カップルのための日と言っても過言ではないだろう。

日頃、私を小馬鹿にしているベルをあっと驚かせてやるんだから。



「ししっ、甘い匂いがすると思ったら姫かよ」

「あ、ベル!丁度いい所に来たわね、味見してく?」

「毒味の間違いじゃねぇ?」



ベルは歯を剥き出してにいっと笑うと、ひらりと手を振った。

相変わらず綺麗な歯並びだ…、と感心している場合ではない。

これは恐らくいらない、という意味なのだろう。



「ちょっと!今回は中々の力作なんだからね、美味しいんだからねっ」



これでは誰の為に作っているのか、分からないではないか。

もしかしたら、いやもしかしなくても食べてくれないかもしれない。

私は何とかベルの関心をケーキに向けさせようと、止めに掛かるのだけれど。

ベルの足はもう厨房の出口にあった。



「…もういい。」

「は?何で怒ってんの」

「だってベルが……」



むくれる私を振り返ると、ベルはさぞ愉しげに笑う。

その意地悪な笑みにもときめいてしまう私は相当重症かもしれない。



「だってそれ、俺の為に作ってるんでしょ?」

「そう、だけど…?」

「なら待ってたってちゃんと俺の元に届くじゃん」

「ベル、食べてくれるの!?」

「ししっ、上手く作れよ」



私は大きく頷くと元気良く笑った。

どうしたってベルの一言で一喜一憂してしまう。


私が彼を心から好いているように、彼も私を愛してくれている、その確かな事実が心を突き動かすのだ。


甘い香りが室内に充満して、私は最後の仕上げに取り掛かる。

スポンジケーキに生クリームと苺のデコレーションを施したら、後は砂糖菓子を中央に載せるだけだ。



「――よし、出来た!!」



思わず満面の笑みが零れる。


ベルの待つ自室へ向かえば、きっと彼は余りの出来に驚くだろう。

それから美味しい、と感嘆の声をもらしてくれる筈だ。

砂糖菓子に描いたメッセージを見たら、ベルはどんな言葉を発するだろうか。

それを考えただけでワクワク、と胸が躍って。



この身体では収まりきらない程の有りっ丈の愛を込めた、このメッセージを彼に届けよう。





お砂糖菓子の囁き




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