冷え切った掌をすり合わせながら、二人並んで歩く。


俺は少し低めの辺りに視線を向けると、隣にいる彼女の顔色が良くないことに気付いた。

長時間寒天の下にいたせいだろうか。

彼女の頬に触れてみれば、驚くほど冷たい肌をしていた。



「おい、姫。今晩はここに泊まろうぜ」

「え…どうして?船に帰るんじゃなかったの?」

「気が変わった。寒い中これ以上歩くのも面倒くせェ、」



わざと気怠そうにそう言って、俺は姫の腕を引いた。

丁度道の脇にはホテルが控えていて、特に何の気なしに彼女を連れ込もうとする。

しかし、ホテルの入り口まで来たところで俺も彼女も、足を止めた。



「ねえ、これって……」

「…気にすんじゃねェよ。一晩泊まるだけなんだ、宿には変わりねぇだろォ?」

「いや、でも…無理あるよ」



俺が見つけたホテルは、つまりは夜の営みをする所なのだろうが、始めから俺にそんな気があった訳ではない。

はあ、と深い溜め息を吐く。

しかしこうしてる間にも、彼女の身体は冷え切って行くのだ。
今は体調の心配をするべきなのだろう。


俺の思案を知ってか知らずか、俺達を招くかの如く自動ドアは開いて。



「仕方ねぇ、行くぜ」

「ちょ、待ってよ!……私とだと、その、晋助が誘拐犯みたいに見えるし…」

「んな事ァ分かってんだ」



自分より年下な彼女の腕を掴み、こんな場所へと引き込もうとしている姿は、端から見れば誘拐犯に決まっている。

しかし室内から流れ出す暖かな空気を感じ、俺は益々引き下がれなかった。

無理はさせられない。


結局俺に押し切られた彼女は、口を尖らせながらも渋々とついて来た。

各個室の前を通る度にそれらしい声が聞こえてきて、俺達は無言で歩いた。



「こんな所に来たってことは、晋助ももしかして……ああいう事考えてたの?」



部屋に着くなり、姫は俯きがちにそう問うて来た。

恥ずかしそうに頬を赤らめる、耳までも真っ赤だった。

彼女にとっては初めてなのだろう、勿論そうでなければ困るのだが。


俺はイエスともノーともとれない笑みを浮かべる。

本来の目的は違っていたのだが、今まで彼女に欲情したことは数限りなくあるのだ。


「もし俺が今ここで抱きたい、って言ったらどうすんだ?」

「べ、つに!……晋助がしたいなら、私…はっ、」



不安と期待が織り交ぜられた、そんな声音だった。

姫は上目遣いで此方を覗く、勿論その行動は意図的ではなく必然的だ。


つまりは、俺さえ望めばお前は犯されるというのだろう。

そう思ってしまうまでに、お前は俺の希望を叶えてあげたいと思ってくれているのか。


――馬鹿かてめぇは。


俺はどうしようも無く彼女が愛おしくなって、気が付けば背後にあったベッドに押し倒していた。

両腕を俺の両手で真っ白なシーツに押さえつける。

そして覆い被さるようにして、俺は彼女の口内に舌を入れた。



「ん、あ……っ晋す、」

「黙ってなァ。舌噛むぜ」



互いの呼吸はどんどん荒くなり、くちゅくちゅと水音をたて、いつもよりも深く深く舌を絡め合った。

姫の口端からだらしなく垂れる涎が、扇情的で堪らない。

俺は夢中で甘く柔らかな唇を貪る。


気付いた時にはもう、俺の下半身は堪えきれない熱を帯び、パンパンに膨れ上がっていた。



「息がっ、んあ、もう…っ」

「ククッ…姫はキスだけでイっちまうのかよ?随分と淫乱なこったァ」

「や、晋助……っ、」



俺は耳元へと唇を移動させ、わざと彼女が感じるように囁いた。

それだけでビクン、と身体を震わせ敏感に反応するから、もっと苛めたいという感情に駆られてしまう。


俺は姫の下半身に手を伸ばすと、既にグショグショに塗れていたそこに触れて。

ぐっ、と力を込めて指先で押さえつける。



「なァ。こっちも、中々気持ちいいだろォ?」

「し、下はっ、…ぁ、あ!」

「クククッ、なァ気持ちいーんだろ?可愛いやつ、」



指先からの愛撫を続ける度に、まるで焦らさないでと言うかのように姫の身体がピクリピクリ反応した。

お前の初めては俺が戴くのだ、ほんの少しくらい焦らしても構わないだろう――?


自身の身体が熱い、触れた先の肌が熱い、喘ぐ声に脳が沸騰しそうだった。



「…大丈夫、ちゃんと優しくしてやるよ」



ニヤリ、不敵に微笑んだ俺に、彼女はまた、喘ぐ。


部屋に差し込んだ月光は、厭らしくも彼女の身体を照らし出していた。





犯罪ですか、そうですか




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