永遠など、所詮は幻想。

有りはしないのだと思っていた。


ずっと一緒にいよう、なんて馬鹿げた台詞だろう。

そんな願いは叶う筈もないのだから、結局言葉だけの偽りで終わってしまう。

私にはそれが痛い程分かっていた、分かり切っていた。


何時までも、共に生き続けることは叶わないのだ。

だって、何時までも変わらないものなどないのだから。





「――結婚、して下さい。」

「…アレン、わたし、」

「覚えていますか?僕が貴女と出逢った日を。僕は貴女と一緒になりたいんです」



忘れる筈がないだろう。

世間がクリスマスだと浮かれきっていたあの日、独り惨めだった私は、滑稽なピエロと冷めた目をした貴方に出逢った。


はらりはらり、雪が舞う。

差し伸べられた温もりを忘れることなど、出来なかった。

何度も何度も忘れようとしたのだ、この居心地の良い幸せから逃げ出そうと。

空虚な永遠を願ってしまう前に。



「アレン、私はっ、一緒には……なれないよ」



私は今にも泣き出しそうになったから、すぐさまアレンから目を逸らした。

絞り出した声が震える、本当は泣きたいぐらいに嬉しいのに。

ごめんなさい、声にならない声が喉元につっかえた。


しかしアレンは私の掌を握り包み込むと、自分の方にぐいっと引き寄せて。



「僕は、姫が好きです。姫も僕のこと、…好きでいてくれているんですよね?」

「好き。だけど、駄目なの」

「どうして?」



小さくコクリと頷いた私に、アレンは優しい微笑みと優しい声音で問い掛ける。


何時だってそうだった、幸福から離れようとする私を、貴方が温かく抱き締めて繋ぎ止めて、愛していると囁くのだ。

私の気持ちを知っていて、逃げられないと知っていて、――何て罪な人だろう。



「……怖いの。大切なものを再び手に入れて、それをまた失うのが。イヤなの。私は、幸せなんて望まなくていい」

「姫、僕も傍にいては駄目なんですか?」

「アレンは誰よりも大切だから。…こんな私なんかより、もっといい人いるよ」

「困りましたね」



アレンは少しだけ難しい顔をして、私の髪を撫でた。

僕は姫じゃなきゃ駄目なんだけどなあ、と苦い笑みを浮かべながら。

アレンのことは、好きだ。

否それ以上に、愛しているのかもしれない。
その感情は確かだったけれど、しかし何時か終わりを告げられてしまうかもしれない不安が私を臆病にした。




「やっぱり、姫、僕と結婚しましょう」

「…だから言ってるでしょ」

「だけど、僕は貴女を諦めきれない。姫が永遠なんてないと思うなら、それでいいです。だけど僕が証明してみせますから」


――この気持ちだけは、ずっと変わらないって。




アレンの真剣な視線が、私の視線を絡み取る。

熱くてくすぐったくて、好きの気持ちが滲み出てきてしまいそうだ。



「…アレン……」

「傍にいてくれませんか?僕は貴女を独りにはしない。僕を、信じて欲しいんです」



人は簡単に消え行くものだから、だから永遠を望むのだ。

貴方も私も、誰しもがきっと心の奥底で願っている。

叶わないと知っていて願うのは、それだけ想いが大きいからなのだろうか。

もうこれ以上、私は自分の想いに嘘はつけなかった。



はらりはらり、雪が舞い、あの時の思い出が蘇る。

私は差し出された手を再び握った。

温かくて優しくてすべてを溶かしてしまうような――アレンの笑顔に、やはり私は恋をしていた。





終わりの見えない恋をしよう




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