ぐったりと疲れ切った身体を丸めながら、俺は夜道を歩いた。 冬の風は冷たくて、その寒さのせいから俺はどんどん縮こまって行く。 肩には彼女へのお土産を掛け、しかし腰には物騒な刀がささっていた。 「銀時、」 ふいに甘く柔らかな声が、俺の名前を呼んだ。 長い夜道の寂しさをも溶かしてしまうような、不思議な音色。 彼女は自宅前で、ずっと待っていたと云わんばかりに此方に手を振っている。 その姿にキュンと胸が高鳴って、俺は瞬時に駆け寄り抱き付いた。 「く、るしい…!」 「あ、悪ィ悪ィ。つい姫の姿見たら安心しちまってさー」 「…ん、お疲れさま」 へらへらと笑う俺の腕に包まれながら、姫は少しだけ口を尖らせた。 しかしそれが彼女の照れ隠しだということはとっくに理解している。 そして互いに、自然と温かな笑みを零すのだ。 俺は抱き寄せる力を弱め、彼女を囲うだけにしてやった。 此方の方が表情がよく見えるだろうから。 少しだけ触れた部分から伝わる熱が、愛おしい。 「てかお前、どんだけ外で待ってたわけ?身体冷え過ぎなんだけど…」 「んー分からない。銀時まだかなぁって思ってたら、いつの間にか此処に立ってたの」 「何だそれ」 間接的に伝えられる好きが妙にくすぐったくて、心がふわりと浮いた。 俺は隠すことなく口元を緩ませると、彼女の綺麗な髪に触れる。 しかし刹那、姫は少しだけ表情を曇らせると無言の笑みを見せて。 眉を顰め困ったように笑い、俺はいつもと違うその反応に戸惑った。 冷たい風が俺の背中を撫でて行く。 「銀時は、こんなに綺麗で暖かい手で誰かの命を奪ってるの?何のために?」 それは真っ直ぐで正直な問い掛けだった。 俺の指先に、姫の指先が触れる。 綺麗な筈がないだろう、綺麗なのはお前の方で、俺のそれはもう血で汚れてしまったのだから。 お世辞にも、綺麗な筈がないだろう、下手をしたらお前の手さえ汚しかねない。 「何のために刀を握っているかって?」 「そう。だって銀時はいつも、小太郎や晋助とは違う目をして刀を振るっているから」 「…姫はさ、あいつらにはなくて俺にはあるもの……何だと思う?」 「え?」 質問を質問で返されたせいか、姫は少し驚いた顔をして考え込むと、分からないと口にした。 首が傾げられ、髪が良い香りを放ちながら揺れる。 俺は至極真剣な瞳で彼女を捉えた。 そして耳元に唇を寄せ、 「…お前だよ、」 甘く、甘く、言葉を紡ぐ。 「俺が刀を握る理由なんて、んなの、姫を守るために決まってんだろ?じゃなきゃこんな危ねぇ真似しねー」 「…っ、馬鹿…!」 「何とでも言え。お前は俺に守られてればいいんだよ」 寄せた唇で、そのまま姫の耳に噛み付いた。 耳朶にちゅ、と音をたてて口付ければ、瞬間的に真っ赤に熟れた彼女の頬。 お前の純白を守るためならば、俺は何でもできるのだと、そう思う。 どれだけ汚れたところで結局最後は、彼女が俺を優しく包み込んでくれるのだから。 君は僕の生きる理由←back |