高杉、俺はもう何度呼んだか分からないその名前を、また何時ものように小さな小さな声で呼んでみた。 くるりと振り返ると口角を吊り上げた、どこか優しさに溢れたその瞳。幼い頃から互いをよく知り尽くしている、彼は幼馴染みだった。 「今日も…泊まってくか?」 受け入れられない恋がある。 満たされ続けない愛がある。 俺達は周囲とは明らかに違った存在らしく、何時だって人目を気にしていた。しかし幸せだったし、やはり今も幸せなのだ。 高杉は少しだけ考える素振りを見せたかと思えば、 しかし次の瞬間には、そうだな、と言葉を続けた。これはおそらく肯定の意なのだろう。俺は毎晩のことながら嬉しくて、口元をゆるりと緩めた。 「そっか。」 「…くくっ、何だ銀時、やけに嬉しそうじゃねェか」 「んな訳ねーだろ!」 「ほら、図星だ。お前は昔っからすぐムキになるからなァ」 喉を鳴らして、高杉から愉快な笑い声が漏れる。俺は相反してそれを不愉快に感じながらも、楽しそうにする彼をじっと盗み見ていた。 何時になっても変わらない。彼の洞察力だったり何だったり、取り敢えず、高杉は凄い奴だと思う。多くを語らなくとも感づいてくれるから、安心して側にいれるのかもしれない。 「てめェはもっと素直になったらどうだ?」 「余計なお世話だコノヤロー」 「ふっ、…可愛くねェやつ」 はあ、俺は呆れたように盛大な溜め息を吐いた。勿論、自分に対してだ。 どうしたって俺は、こんなにも彼を愛してしまったのだろうと。高杉は男だ、俺にも最初からそんな趣味があったのではない。しかし、どうしようもなく惹かれていった。気付いた時にはもう、恋愛感情を抱いてしまっていたのだ。 「可愛いなんて言われて、喜ぶ男はいねーだろ」 それもそうだ、高杉はひっそりと相槌を打つ。 そして次の瞬間、俺の肩を自然な手付きで引き寄せるから、思わず寄りかかってしまった。 「なァ銀時、男だろうが何だろうが関係ねェ。寂しい時は、寂しいっつってもいいだろ?」 「…だから始めに言ったじゃねーか。今日泊まれるか、って」 「あァ……、てめェの表現の仕方は曖昧で分かりにくい」 高杉から発せられる一音一音が俺の心を揺さぶり、胸をぎゅうっと鷲掴みする。触れ合った部分から伝わる、二人分の体温が心地良かった。 周囲に知られてはならないと、俺達のそれは秘密だ。高杉の言う通り、俺は多分寂しかったのかもしれない。余り自覚は無かったけれど、昼間は会えないその切なさが胸につっかえていたようだ。 だからこそ、 「仕様がねーな、高杉、今はお前だけの俺で居てやるぜ」 「偉そうにすんじゃねェよ、馬鹿のくせして」 「……うるせー」 柔らかい笑顔は俺だけが知っている。 穏やかな温もりは俺だけと共有している。 夜が明けるまでは、愛する人はすべて俺だけのものなのだ。 朝になっても傍にいて←back |