どうして――、胸を突いて出た言葉はそれだけだった。


沖田は息を呑む。

思いがけず、意味が分からない。

少しの動きも見逃すまいと目を凝らした。

その眼に映るのは、全く以て不思議な光景。

恐ろしく感じる程、ただひたすらに静寂。




大勢の浪士達は確かに其処にいるのに、誰一人として此方を見ることなく。

声を挙げることもなく。

ただひっそりと静かに虚しく、冷たい地面に横たわっていた。




屍だけが存在する空間で、沖田だけが息づいている。

自身の呼吸音が鼓膜を揺らし、咄嗟に口元に手を宛てがった。



「酷ぇ殺し方をするもんだ」



まっ、人のことは言えないけれど。

沖田は自嘲じみた笑いを漏らすと、刀の柄に掛けてあった指を外した。


生臭い血の臭いには慣れていた。

しかし辺りから漂って来るのは腐臭だった。

死んでもう随分と経っている、それもここ数時間の話ではない、何日間も、ということだ。



「こんなになるまで放って置きやがるなんていい度胸してまさァ。後処理する身にもなれってんでィ」



沖田は悪態を吐きながらも、止まっていた足を進めた。




やはりお上の考えていることは凡人の俺にはこれっぽちも分からない。

始末も何も、もう死んでいるではないか。

それも命令を下されるずっと前に。


――ならば、どうだ。


俺達に死体の処理をさせたかった?

じゃあ何故そう伝えなかった?

わざわざ調書を偽造する意味は?

そもそも奴らを殺したのは誰だ?



ぐるぐるぐるぐる、分からないことだらけが脳内を渦巻く。


自分に頭が足りないことは重々承知していたから、沖田は助けを求めるべく携帯電話を取り出した。

土方にはきっと、山崎を介して先程までの状況は伝わっている筈だ。

だからまずは彼に連絡して、それから自分は指示を仰げばいい。



「今此処に居るのは自分だけだか―――…っ!??」



びりり、空気が裂ける感覚。


沖田が瞬時に振り返ったのと、刀を抜きはなったのは同時だった。



「……誰だ。こそこそしてねェでさっさと出て来なせェ」



確かに今、微かな視線と殺気を背後に感じた。

沖田は威嚇しながら相手の居場所を探る。


それと同時に、取り落とした携帯電話が地面に擦れ鈍い音を挙げながら振動した。

画面には今し方掛けようとしていた、まさにアイツの名前が。

それは誰もが見逃す程の、ほんの一瞬の、僅かな隙だったと思う。



瞬間――、ぱんっと乾いた音が沖田の頭上で弾け飛んだ。




一瞬に惑わされる



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