「ったく、あいつは…!無茶ばっかしやがって……っ」



土方は焦燥感に駆られていた。

こんなにも苛立たしい気分になるのは大抵、マヨネーズか煙草が不足していたり、――あいつが、総悟が、何かやらかした時ぐらいだろう。





つい、先刻のことだ。


山崎から一本の通信が入ったかと思えば、焦る山崎の声と周囲の異様な騒音に、土方は一瞬で状況を理解してしまった。

まさかな、と唾を呑み込めば案の定、それは。



「ふ、副ちょ…っ!おおお、沖田さんが……っ、沖田さんが…!」

「ひとまず落ち着け、山崎。総悟がどうした。…状況は?どうなってやがる」

「は、はい…。何者かの襲撃を受け車両が炎上しました。沖田さんは俺に此処に残るよう言い残して……本来の目的であった、敵陣へ」

「はァ!??あいつは馬鹿か…!それで、被害は?」

「人気の無い道でした、辺りの住民に被害はありません。ただ隊士三名が重傷で…――」



山崎の話もそこそこに、偶然にもそう遠くはない地域で巡回中だった土方はすぐさま現場へ向かった。

そして今に、至る。





土方は苦い表情のまま、街道を抜け細い道へと入っていった。

山崎は言っていた、人気の無い道だったと。

ということはこれは真選組のみを狙った、攘夷浪士共の報復だろう。


土方は更に眉根を寄せると、鋭い目つきで行く先を睨む。

つまりはきっと、沖田の向かう先には罠がある。



「まぁそれくらいは流石のあいつでも理解している、はず」



ただ、嫌な予感がしていた。

ざわざわと得体の知れぬ何かが揺らぎざわめく。

土方はそれを誤魔化すかのように、溜め息混じりに煙草をすり潰した。



全く、手の掛かる奴だ、と。



加えて俺だけに対するあの反抗的な態度は、憎たらしい以外の何物でもなかった。

まだまだ餓鬼で、鬱陶しくて、それでいて往生際の悪い、どこまでも面倒臭い男なのだ、総悟は。


しかし俺がそれを憎みきれないのは惚れた弱味なのだろうか。

土方十四郎という男は、あろうことか、沖田総悟という同性に心底惚れてしまっているのだ。

それも本当に、どうしようもなく。



「…総悟……」



ふと、焼け焦げた車両が目に入る。

激しく音をたてていた炎は鎮火されていた。

土方が車を乗り捨てれば、隊士に手当てを施していた山崎が青ざめた顔で走り寄って来て。



しかし、今はそれどころではないのだ。



医療班は呼んである、大丈夫だ。

たった一言だけそう告げると土方は山崎の脇を走り抜けた。



「副長…ッ!!沖田さんを、頼みます……!」



早く、早く、背後から突き刺さる彼の視線が土方を追い立てる。

どくん、どくん、自身の心臓までもが急き立てて来る。

土方は両脚に精一杯の力を込め、何度も地面を蹴り続けた。



総悟は強い、だから一人でも大丈夫だ。



無理に思い込もうとした。

しかし焦る思いが拭えず、胸は意味の分からない不安を催す。


ざわめきが消えないのだ。

何なのだ、この違和感は。

何なのだ、この不快感は。



「無事で、いてくれよ」



切望にも似たその呟きを喉の奥から吐き出した。

ああ、嫌な予感が胸をくすぶっている。

落ち着かない心臓を鷲掴みにして、土方は、ただひたすらに走った。



――その、刹那。


あいつの、最愛のひとのふてくされた笑みが、フラッシュバックして、――消えた。




今すぐに触れさせて



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