炎が、弾けた。
メラメラと音をたてながら車体は橙色に呑み込まれて行く。
所々の部品は爆風で吹き飛んだのか、タイヤが地面を転がり、沖田の足にぶつかって止まった。
呆然と立ち尽くす、大きく目を見開いた山崎の隣で、沖田の瞳孔が微かに開いた。
彼をよく知らない人から見たら無表情のままのように思えたけれど、並々ならぬ殺気が彼の身体からは放たれていた。
山崎は思わず息を呑む。
しかしそれは沖田に対して、では無く。
現場に居合わせたとしたら、きっと誰もが一瞬にして自身の目を疑うであろう、その光景に。
「こんな…酷い……!」
「落ち着きなせェ、山崎」
「で、でも…!中には沖田さんの…っ、一番隊の奴らが!」
「んなこたァ分かってんだ」
「それならッ!!」
「それなら?あの燃えてる中どうやって助けに行くってんだ。飛んで火に入るほど俺もお前も馬鹿じゃねェだろィ」
助けたいのは俺だって同じだ。
そう、沖田は悔しそうに唇をキツく結んだ。
燃え盛る炎が、容赦なくパトカーを燃やし尽くそうとしている。
到底近付くことすら出来ないし、ましてやたった二人で消火など出来る筈もない。
我慢するしかないのか。
飛び火が沖田の前髪に掛かり、チリリと焼け焦げる匂いがした。
「全く、ふざけてまさァ」
ギリッ、人一倍プライドの高い沖田は歯を噛み締めて周囲を鋭く睨む。
そして鞘に手を掛け、すらりと刀を抜いた。
しかし本来ならば光を浴びて煌めく筈の刀身が、今朝はやけにくすんで見えた。
ああ、いつの間に空が雲掛かっていたのだろう。
厭な、曇天だ。
沖田は殺気を放ったまま、再び燃える車体に視線を戻した。
初めから妙な気はしていたのだ、しかし気に食わない。
これではまるで――、
「真選組を馬鹿にしているとしか、思えやせんね」
くるり、踵を返し、沖田はまさに進もうとしていた方向に歩を進めた。
十数人なら一人でも充分討ち遂げられるであろう確信と、この行き場のない衝動だけが沖田を突き動かす。
「沖田さん!??」
「山崎ィ、アイツ等は絶対生きてるぜ。だからお前は此処に残って、その手当てをしてやりなせェ」
「そんな、沖田さんは…」
「俺はちょっくら、頼まれ事を片付けてきまさァ」
「だ、駄目ですよ!一人で行くなんて、絶対に」
「駄目かどうかは俺が決めることでィ」
此処から例の工場までは、もうすぐ其処だ。
沖田は山崎に背を向けたまま、歩を速め、駆けだした。
山崎の制止の声も聞かず、瞳の奥に焼き付いて離れない、ゆらゆらりと閃くそれを振り切るかのように。
沖田の瞳は、とても濃い、蘇芳色に染まっていた。
瞳の奥で、ゆらめく
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