朝礼を終えると、沖田は眠たい目を擦りながらもパトカーに乗り込んだ。

別に土方に頼まれたからだとかそういう事ではなく、一番隊隊長としての任を全うするためだ。

自分が居るのだからまあ良いだろうと、部下は三人しか連れて来なかった。



エンジン音と共に山崎が車を出す。

現場は道が入り組んだ場所にあるらしく、山崎自ら運転を名乗り出てくれた――のではなく、ほぼ沖田の強制で。


嫌々ながらも何だかんだで従ってくれる、山崎は根っからのパシりだと思う。

沖田はせせら笑った。

いや、その優しさを称賛すべきなのだろうか。



「沖田さん、これ」

「……何ですかィ」

「調書ですよ。副長から預かって来ました。必ず読ませとけって言われてるんで、」

「いりやせん」

「だから、そんな事言わないで読んで下さいよー…!」



困ったように喚く山崎を尻目に窓の外を眺めていれば、車は街道を抜け細い道へと入っていく。

確か山崎は、町外れの山間だと言っていた。


あいつらはちゃんと着いて来ているだろうか。

さり気なく振り向き確認をすれば、此方に気付いた隊士達が沖田に笑い掛けてきた。

大丈夫そうだ、と。

そしてまた前に向き直ると、妙に真剣な面持ちの山崎と目が合う。



「山崎のくせに、怖い顔してどうしたんですかィ」

「沖田さん…。あの、ですね、今回の件はどうにも不可解な点が多すぎるんです」

「不可解?調査したのはお前だろ、そんなんで、」

「違うんです。俺は今回何も関わってないんで」

「監察が関わってない…?」



どういうことだ、と問い詰める前に再び差し出されたそれを、今度の沖田は素直に受け取る。



開けば、調書の筆跡者の欄には沖田の知らない名前が書かれていた。

しかし内容は普段のものとあまり変わり映えはしない。

廃工場に根を張っている過激派浪士、数は十前後。

土方の言っていた通り、非常に小さな捕り物だ。



山崎の言う、不可解が沖田には分からなかった。

沖田が小難しい顔をしてみせると、やはり助け舟が入った。



「幕府が独自で調査したらしいんです。真選組も気付かないような、小さな派閥を。……何か、不自然じゃないですか?」

「確かに。しかも、それを昨日初めて真選組に伝えてきた、つーことですかィ」

「はい。そして今日中に始末しろ、と念押しされて……。だから一番隊を出すことに…」

「お上の考える事なんか、俺にはサッパリでさァ」



はっ、と苦い笑みを零せば、その辺は俺達の仕事ですからと山崎は薄く笑みを浮かべた。

ひょっとすると、山崎が潔く運転を任されてくれたのは、現場を調査するためなのだろうか。

全く土方に似て仕事熱心なことだ。



「んじゃ、任せやしたぜ」



山崎の頭に調書を叩きつけ返した。

それに山崎が小さな悲鳴を上げる、そして文句を零そうとした、刹那。






――ドォオオォオン!




大きな爆発音が木霊し、車体が突き飛ばされるようにして前に飛んだ。

前のめりになる身体、背後から襲った衝動、痛いくらい速く打つ脈拍。

嫌な予感が全身を駆け巡り、冷え切った汗が額を伝わった。


そして焦る鼓動を抑え一瞬の迷いも無く振り返った、沖田が見たのは、あまりにも絶望的な、――それ。





平穏を壊しゆくもの



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