開け放たれた襖から暖かな風が流れ込み、広間に集う隊士達の肩を撫でていった。
陽気が沖田の眠気を誘い、もう何度目かの欠伸を漏らす。とても穏やかな朝だった。
今は朝礼の真っ只中な訳だが、確か今日の俺は昼時に巡回の仕事が入っていただけだ。
よし、戻ったらそれまでもう一眠りしようか。
「――それじゃあ、みんな!今日も一日張り切って江戸の安全を守ってくれ!」
「解散だ」
近藤の熱意ある掛け声の後に続き、土方から短い一言が下された。
近藤が守っているのは、どちらかと言うとあの万事屋の眼鏡の姉の近辺だけな気もするが、まあそんな事はどうでも良い。
どうせ自分も似たようなものだと、沖田は思い切り伸びをした。
「おい、総悟」
今から部屋に戻ってもう一眠り、と腰を上げた矢先だった。
先程まで隊士達の前で構えていた土方が、今は自分の眼前で腕を組み此方をじいっと睨み付けているではないか。
視界を遮られ、少々機嫌の悪い沖田はムッと顰めっ面をしてみせる。
沖田と土方の脇をすり抜けようとする隊士達はいつものが始まったと言わんばかりに、特に気にも留めずお先に、とその場を去っていった。
「何です、土方さん。要件があるならマネージャーを通して貰わねェと困るんですがねィ」
「そんなもんお前にいねェだろ。それより、朝礼でぐっすり寝てんじゃねェよ」
「俺ァ寝てやせんぜ、ちょいと夢を見に行ってただけでさァ」
「同じことじゃねーか!ったく…。一応隊長なんだから他隊士に示しが付かねェこと、あんますんなよ、総悟」
一応とは何だ、バリバリ隊長に向かって。
それとも副長の座を譲ってくれると言うのか、いやそうでなくても奪うつもりだが。
沖田はネチネチした土方の小言を口笛で片付けると、脇をくぐって廊下に出た。
朝っぱらから怒声を聞くのはうんざりだ。
しかし案の定、土方はこれまたネチっこく言葉を投げ掛けて来て。
「おい、どこ行くんだよ!」
「部屋に決まってんでしょ。もう一眠りしてきまさァ」
「は?お前、今日の説明聞いてなかっただろ…。一番隊は朝から捕り物に変更になった、っつっただろ」
「はぁああ?」
これは大幅に想定外だ。
目論見が台無しになってしまったことに憤慨しながら、沖田は土方に向き直る。
何で一番隊なんですか、そう尋ねるつもりが、先に口を開いたのは土方の方で。
「これは昨晩決まったことだ。急を要する案件だったから、無理はあったが今日にした」
「だから何で、」
「突然だからな、皆準備が出来てねェ。だからかなり小さな捕り物ではあるが、腕の立つ一番隊に任せんだよ」
「……こういう時ばっかこき使いやがって」
「あァ、何か言ったか?」
「何でもねェでさァ」
任せた、とだけ言うと、土方は沖田を通り越し先に居なくなった。
こればっかりは部下だけに任せる訳にもいかなくて、沖田は超絶不機嫌ながらも素直にその場から動き出す。
広間を撫でていた風は、いつの間にか、冷え切ったものに変わってしまっていた。
ありふれた日常
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