発熱反応





秋風が窓ガラスを吹き抜けて、姫の髪を揺らした。

肌寒さを感じるその風に、身震いをした、放課後の下駄箱。



「…朝は晴れてたのになあ」



運動場とにらめっこす姫。

外は雨でグショグショだ。


水溜まりに弾ける雨粒を見やり、姫は深く溜め息をついた。



「何湿気た顔してるの」

「あ、恭弥……」

「ワオ、とうとう降り出したみたいだね」

──朝は晴れてたのにな。



自分と同じ事を口にする恭弥に、姫は少しだけ苦笑した。


そう言えば、考える事が似ていると、以前周りから言われた事があった気がする……。

そんなことを思い巡らせながら雨雲をぼんやりと見つめていると、ばさ、と傘の開く音がして。



「帰るよ。」



と、恭弥が姫の鞄を引いた。


まるで無防備だった姫は、軸を奪われるようにして彼の胸板に寄り掛かる。

その男らしい肉付きに、思わずドキッとした自分がいて。



「っあ…ちょ、恭弥!?」

「何してるの、早く帰るよ」

「え、でも、私傘無いから…」

「ふーん。だから?」



だから、と言われましても…。


そう口ごもった姫の掌を握り締めると、恭弥は自分の傘の柄を握らせた。

一緒に帰るんでしょ、と淡々と告げながら、その掌を彼女の上に重ね合わせ。



「…狭い。」

「ご、ごめん!」



雨粒から伝わる、彼の吐息。

傘から伝わる、彼の温もり。

不器用で無愛想で、だけど優しくて愛しくて──。


皆には分かりにくいその愛だけれど、気付いてしまう私は少しだけ鼻が高いかもしれない。

ふふっ、と優越感に笑みを零せば、不思議そうに此方を伺う恭弥に不覚にも胸が高鳴ってしまった。



(私は貴方に、何度でも恋をする。)






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